06


立海のテニス部ってみんな凄いよね、と渡瀬先輩は呟いた。

「皆さん努力してるでしょうから」
「そうだろうね。たくさん努力してる。ねえ、舞ちゃん。立海は三連覇できるかな?」

そう訪ねる渡瀬先輩。
その瞳には不安の色が見て取れる。
おかしい。
何故こんな感情を持っている?
編入したばかりだけどこんな事をいうからには既にこのテニス部に情が入ってる。
なら絶対三連覇しようねとかなら理解できる。
他校の強い選手を見た事があったとしても強くなる期間はまだあるのに。
何だ、このまるで三連覇ができないと解ってしまうような絶望間が見えるのは。
そんなの、このタイミングで解るのは私みたいな転成者か……。
いや、もしかしてそうなのかもしれない。
だから不思議な雰囲気を持つのかも。
私と違いこの世界の人から出たわけではないのだから。
強制的に世界に入った異端者。

「ちょっと前に精市先輩が体調を少し崩したんですよね」

嘘だ。

「え、じゃあ部活とかしてて大丈夫なの!?」

過剰な反応。
やっぱりこの人はトリップしたという事か。

「軽い風邪でして。でも秘密ですよ?精市先輩はみんなに隠してたんですから。
 あ、もうちゃんと治ってますから心配にはおよびません」
「そう、なんだ」

まだ不安そうだな。
ま、大丈夫か。

「もう休憩時間終わりますよ渡瀬先輩」
「あ、本当だ!」
「これ、精市先輩とに渡して下さいませんか?それと伝言を。
 『捨て置いても大丈夫ですよ』って。これはハルにもいっておい下さい」

一人一人のメニューと弱点をまとめた紙を渡す。

「うん、わかった。じゃあね舞ちゃん」
「お願いしますね、渡瀬先輩」

渡瀬……渡る瀬。
仏教ではあの世とこの世の間の間にあるのは三途の川だ。
瀬、はそれを暗示してるような気がする。
あの世(元いた世界)とこの世(テニプリ)を渡る、か。
なんとも示唆的名字だ。
たまたまで考え過ぎだろうけれど。
彼女本人は悪意もない至極、善良だ。
どうやってトリップしたのかは解らないけどたいした影響はないだろう。
精市先輩と、ハル。
二人の大切なテニス部には悪影響は及ばない。
ごたごたはあるかもしれないが深刻視はしなくていいと判断した。
だから「捨て置いても大丈夫」だ。
遠くでこちらを見た二人に小さく手を振った。



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