04
心地良い眠りを邪魔したのは一つの大声だった。
急な大声に目覚めると「うるさいよ」なんて声がする。
寝ぼけた脳を無理矢理回転させて起きようとして失敗する。
あ、ハルに抱きしめられたままのせいか。
「ん、うるささいぜよ……」
「ハル、起きて」
寝ぼけたハルがもぞもぞと私を離して起き上がる。
そして一瞬フリーズした。
私もフリーズした。
なるほど、叫ぶのも無理はない。
見知らぬ女があの「仁王雅治」に抱きしめられて寝てたら。
そこにいたのは精市先輩に柳生先輩、そして見知らぬ女生徒。
叫んだのが女の人でたしなめたのが精市先輩。
「おはよう、仁王、舞」
素晴らしい笑顔で話しかけてくる精市先輩。
ハルの顔が引きつらなかったのは流石としか言いようがない。
「なんで幸村達が……」
「ふふ、時間を見て言おうか。もう部活の時間だよ」
空を見ると太陽は真上を通り過ぎて大分たっている。
午後の授業は少なくても終わってると思わせるぐらいに。
「あー、すまんの」
「わかればいいんだよ」
「それよか舞、幸村と知り合いだったんか?」
「ま、色々あってね」
なんか嫌そうな顔をされた。何でだ?
いじめの事でも考えているのだろうか。
「あの、仁王君。彼女とはどういう関係なのかな?」
そういう女生徒。おそらく、編入生。
そこそこ美人で気取った感じもない。
まだ少女特有の幼さを残すものの落ち着いた感じの人だ。
そして、なるほど確かに変な感じがする。
「俺も気になるな。抱き合って一緒に寝てるなんてね。仁王にしては珍しい」
「ただの、幼馴染みじゃ」
「舞です」
「ふぅん、仁王の……。やっぱりいい物件だな」
は?
何をお考えですか?
「ね、やっぱりマネにならない?」
「なんで舞がマネなんか……」
「お前には聞いてないよ。黙れ」
「じゃが!」
「すいませんがハルの専属なのでごめんなさい」
ハルが言葉を遮って言う。
私はハル専属だしハルが嫌がってるのにマネになる気はない。
「仁王の専属?」
「小学校からそうなんです」
「へぇ、なら部活の見てた方がいいんじゃないの?」
「メニューはハルから聞いてますから」
「マネの仕事はしなくていいよ。それは渡瀬さんがするから。
舞は選手を見て俺にアドバイスしてくれるだけで」
「仁王君は舞さんの危険を危惧していますからそれだけでは仁王君は納得しませんよ」
「柳生!」
「それならテニスコートにいなくていいよ。ミーハー共の目もこれで防げるし」
「……ハル」
私、どうしたらいいでしょうか?
この条件なら悪くない。
それに、弦兄に見られなくていい。
でもきっかけは作り易い。
安易な再会は兄弟だと認めにくいから。
「好きにしてよか」
「じゃあ……。でも周りの、ここにいる人以外にはその事秘密にしてくれるなら」
「決まりだね」
「渡瀬真鈴です。今日からマネなんだ。仕事は違うけど同じマネだしよろしくね」
丁寧にお辞儀する編入生。ハルが何だか嫌がってる。
「はい、渡瀬先輩」
それに、この人の観察もできる。
何か害があるようなら、その時は……。
「では舞さんは何処にいますか?」
「テニスコートの裏に」
それならよく見える。
それに小さい丘があって木もけっこうあるから日陰があり加えて高い位置だから目立ちにくい。
「じゃ、決まりだね。ほらさっさと部活にいかないとフフフフ……」
うわー……。
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