04


私をじっと見る切原君は捨てられた子犬のようでした。
期待されても困る。

「なぁ……お前、えっと、名前なんだっけ?」
「真田だよ。せめて隣の席の子の名前は覚えようか」
「さっ!?もしかしてお前、真田副部長の知り合いか!?」
「……なんの事かわからないけど、私も仕事があるからカウンターの方に移動してくれないかな」
「お、おう」

弦兄、貴方もう副部長だったんですか。
しかも、もう既に切原君に恐怖を植え付けたのか。
自業自得な面があるとは言えちょっと同情する。
切原君が差し出すプリントを見る。

「いい?これがSでこれがV。英語と日本語の語順は違うから……」
「なぁ、SとかVとか何だよ」
「先生、ちゃんと説明してたよ?」
「寝てた」
「ちゃんと聞きなよ。しょうがないな。Sは主語subjectだね。
 Vは動詞で、verbalの略。英語は基本的に主語、動詞でその後に修飾してくの」
「ふぅーん」
「だからまず主語、この場合は彼女だからsheだね」
「しぃ?」
「……。まず切原君は単語をきちんと覚えようよ」

四苦八苦する事一時間。

「そこにbe動詞入れて……。はい、終わり」
「お、終わったぁ」

ぐったりする切原君。
どうにか埋まったプリント。
私、よく頑張ったな。

「切原君もお疲れ様」
「ありがとうな。それにさな……あぁ、副部長とかさなる!!」
「名前でいいよ」
「じゃ舞!お前意外といい奴だな」
「意外とって失礼だよ」
「それに思ったより話しやすいし。教えるの上手いし。
 もっとネクラな陰険な奴だと思ってたぜ」
「すごい偏見だね……」
「じゃ、それセンコーの渡して部活に行くか!
 あっ、でも副部長に怒られるかも」

補習になるなんてたるんどる!
かな。
確かに怒られそうだな。

「いい事、教えてあげようか」
「いい事?」

首をかしげる切原君。
こうしてるとかわいいな。
切原君って犬属性なんだよね。

「俺、授業で解らなかった所を先生にとことん解るまで質問してましたって言えばいいんだよ」

柳蓮二とかハルあたりは騙されないだろうけど。
でも弦兄はそういう言葉には弱そうだ。
真面目だし。

「わかった!じゃあな、また明日」
「じゃあね切原君」
「お前も名前でいいって」
「……赤也君」
「おう」

にこっと笑って去って行く切は、赤也君。
さて、私も帰ろうかな。



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