02


切原君と言葉を交わし終えたのを待っていたように今度後ろから肩を叩かれた。
なんだ、忙しい。
私は本が読みたいのだ。

「初めまして。私は九夏 綾菜と言います。よろしくね」

にこりと笑いかける女の子。
ふわふわの栗色の髪、いかにも育ちのいいお嬢様みたいだ。

「初めまして。真田舞です」
「舞さん、とお呼びしてもいいですか?」
「構いませんよ」
「前後の席ですもの、仲良くして下さいね」
「こちらこそ」

うーん……。
当たり障りのない会話。
けどそれが逆にな。
話しても育ちのいい子みたいにしか聞こえないけど何か違和感がある。
無害そうなのに、そうじゃないみたいな。
ハルといるおかげかそういうのには敏感になった。
一度気になると確かめないではいられない人間の性。
怖い物知らず、もしくは無謀という。
もっとも、この程度で何か害があるとは思えないし。
友人を作るチャンスをわざわざ減らすのもね。

「九夏さん」
「下の名前でいいですよ」
「では綾菜さん、不躾な質問してもいいですか?」
「どうぞ」
「それ、素?」

びっくりした顔をした後に今までのにこにこした笑みが変わる。
音にするとにぃ、って感じ。
狐みたいだ。

「凄い、一発で見切った人なんてほとんどいなかったのに。
 もしかして本当に仲良くできそう」

狐は狐でも九尾あたりかもしれない。
なんで私の周りには普通な人がいないのだろう。
謎だ。
しかしそんな笑い方をしても育ちの良さは感じるから
本当に育ちはいいのかも。

「そう言うのは気づく方でしてね、昔から」
「敬語はやめてよ。同い年だし」
「わかった」

ここで先生が教室に入ってきて会話を中断した。

放課後、切原君がテニスコートに走って行って
三強にこてんぱんにされたのを図書室で見て思わず笑ってしまったのはまた後の話。

「原作、いやプロローグかな。
 王子様達の物語が始まった……」

私は図書室の本を一つとる。
入学式当日に本は借りれないけれど。
しかし閲覧は可能だ。
きっと私はここに入り浸る事になるだろう。



戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -