08


「ねえ舞ちゃん。二つ程、質問させて?」
「……どうぞ」
「舞ちゃんは家族から暴力、虐待は受けてないわよね」
「ええ」

子供が家に帰りたがらないのは喧嘩したとか親に怒られる後ろめたさを感じている時。
または、虐待を受けている時。
百合さんの観察眼で前者のように見えなかったのだろう。
でも後者は意外と解りにくい。
暴力をふるわれるのは自分に否があると考えがちだし。
だから虐待にあっていても気づかれないのだ。
勿論そんな事は無い。
お兄様達もお父さん、お母さんも私を可愛がってくれる。
でも私が警察に連絡する……家族に会うのに躊躇う理由。
それは、怖いから。

原作

その単語が脳裏を横切る。
ここは私が『真田 舞』がいる時点で違う世界だ。
だからパラレルワールドみたいな物だと思ってる。
それに試合結果が変わるのも別にどうでもいい。
勝負事なんだからどっちが勝ってもおかしくない。

でも例えば。
怪我ですむはずの(重傷と言えども)試合がそうではなくなったら。
一生テニスができなくなってしまう怪我になってしまったら。
いや、それならまだいい。
生きてるから。でも、死。
死んでしまったら。

そしてもっとも死に近くなる存在。
「幸村 精市」
そしてその存在に近い
「真田 弦一郎」

私が彼らに近づきすぎる事で原作と変わったら。
私は少しでも『私』という異分子が入ったせいだと思わないと言い切れない。
考え過ぎだと思う。
でもそう考えるのは自分のせいじゃないと思いたいからで。
やっぱり私は利己主義だ。

「じゃあ、なんで家に帰りたくないか聞かないわ」
「そのほうが助かります」
「その代わりと言ってはあれだけど、この家に住まない?」
「え?」
「ずっととは言わないわ。舞ちゃんが家に帰りたいと思うまで」
「……」
「それから、きちんと警察には届けはだすわよ。それが大人としてのけじめだから」

解るわよね、と微笑む百合さん。
それはいい。これは私のわがままだから。

「迷惑じゃぁ、ありませんか?」
「全然いいのよ」
「すいません。それから、ありがとうございます」
「いいのよ。雅治の事、これからよろしくね」
「勿論です」

優しく頭を撫でてくれる百合さん。
あまりなれてない行為だけどその心地良さに目を細める。
お母さんは良妻賢母だけど百合さんはマリアって感じだ。
お母さんとまた別の安心感がある。

「舞ちゃんは本当にしっかりしてるわね」
「アハハ……」

苦笑いしかできません。

「それにとても聡明。ねえ、舞ちゃん。
 これからきっと辛い事、苦しい事がたくさんあるわ。
 でもね。嬉しい事も楽しい事もたくさんあるわ。
 家族はその喜びも悲しみも共に分かち合える一番近い存在なのよ」

だから、遠慮はしないでね。
そう続けた。
百合さん貴方、本当……。
こくんと頷けば額にキスをされた。

「さ、もう休みなさい」
「はい」

私は来た道を戻り始めた。



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