05


キスされた後に内藤君は走って逃げて行ってしまった。
ヤり逃げかよ。
ファーストキスがー、なんて思う性格でもない。
けどそのまま逃げられたのは流石に驚いた。

なんとなくその後に不快感が残って近くの水道で洗ってみた。
気持ちの問題。
そんな時ハルが声をかけてきて柄にもなく動揺した。
長年一緒にいるから直ぐさまポーカーフェイスを作ってもばればれで思わずため息をつきそうになった。

「何された」
「いや、別に」

以前の跡部さんの件があってなんかハルには言いにくい。
どうやってこの場を切り抜けるか。

「俺に嘘をつく気か?」
「嘘はついてない」
「舞」

ハルの真っ直ぐ見られると後ろめたさを感じて視線をそらす。
目を合わせる事は感情を知らせるのと同意義だ、ハルの場合。

「舞」

もう一度呼ばれる。
私はこうやってやられると黙ってられないのに。
だからハルもあんまりこう言う手は使わない。
でも、それを使ってでも知りたいのは何故?

「同じ学年の子に告白されて……キスされました」

きゅう、と寄せられる眉間。
ああ、だから言いたくなかったのに。

「で?」
「告白は断ったし、付き合う気も無いよ」
「……そか」

沈黙。

沈黙。

沈黙。

どうしよう、すっごく気まずい。

「えっと。ハル!」
「……」
「抱きついて!」
「は?」

ああ、これもデジャブ。

「内藤君よりハルに抱きつかれる方が落ち着く」
「はぁ、舞は甘えん坊じゃな」
「ハルほどじゃない」

ハルの体温を感じて目を閉じる。
ああ、どうしよう。
気づかないフリしてたのに。
気づきたくなかったのに。
言われなくても知っていましたよ、精市先輩。
だってハルの語弊もなく側から離れたくないって思っていたから。



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