03


救急車には私達は乗れないし病院だって身内ではないのだ、待っている訳にもいかない。
とぼとぼとそれぞれの家に帰宅した。

歩いている間、誰も話さなかった。
弦兄も家に帰ってからも何も話さない。
皆も同じなのだろう。

皆の不安をよそに時間は過ぎて夜は空けて。

「こういう時、自分が子供だってのがすごく悔しいぜ」

何時もの時間に全員が部室に集まっていた。
水を打ったように静かな中、ブン太先輩が呟いた。

ブン太先輩の気持ちは皆、同じ。
友が倒れても何もなかったように日はあけて
学校に登校してこなくてはいけない。
そして病院に行っても何もできないであろう事に。
そこに子供の無力さを味わうのだ。

「先輩、部活を始めましょう」
「そんな気になれるかよぃ」
「精市先輩が倒れて、部活ができないなんて精市先輩は責任を感じます」

昨日ずっと考えていた。
どうやったら一番最善か。
それは何時もどうりに部活を始める事。

「舞は強いな。昨日だって、とっさに指示を出して。
 俺は何もできなかったと言うのに」
「私は」
「舞だって怖かったぜよ、ジャッカル」
「ハル……」
「舞の言う通りだ。
 ここで無力感に打ちしがれてどうする!
 俺達でできる事を考えるべきだ。
 部活を始めるぞ!
 幸村の変わりに俺が指示する。
 あいつが戻って来るまでの間、俺がテニス部を守る」

病に伏せる友の為に王者立海テニス部を守る。
それが精市先輩への自分達の誓い。

王者は負けは許されない。
それは伝統的な精神だった。

一年の時はひたすら頂上を目指す為に。
二年の時は自分の誇りにかけて。
来年、三年の大会は友の為に

その精神を守ると誓ったのだ。

いつも道りに部活を始めたから
一部には冷たいと思われている。
構わない。
自分達の気持ちなんか理解してもらわなくても。

「無敗でお前の帰りを待つ、幸村」
「真田」

放課後、部活の後に病院を訪れた時には精市先輩の意識は既に戻っていた。

弦兄は誓いを口にする。

「すまない」
「謝るな」

精市先輩の病気は治る。
絶対に。
ずれてしまった現実。
昔は気にもしなかったが今は精市先輩を含めテニス部は私の「身内」
私の知っている過去が変わっても私は絶対に治ると信じる。
皆だって、確証はないけど信じて待つ事を選んだ。

「待っててくれ。絶対に戻るから」

勿論、と言う声が見事にばらばらに返ってきて精市先輩は面白そうに笑った。



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