真で騙して


幽かに開いている窓から薫風がふきこみ、カーテンが膨らんだ。
そうして、カーテンが翻り静寂に戻るまでをただ静かに待っていた。
いっそ眠気さえ促す麗らかな日和は平和そのもののようで、それが可笑しくてしかたなくなってしまう。

「何笑っとるん」

パソコンに向きあったままの雅治が言った。
彼には後ろに目がついているのだろうかと、少し驚きながらも別にーと間延びした返事を返す。
ぺたりと机に頬をくっつければかすかに感じる冷たさを心地よく感じる。
ああ、このまま寝てしまいたい。
目の前には片付かない書類の山。
書籍で犯罪者がわかってたまるかと、思いながらすがってしまう、参考資料達。
正義の見方の正体もこれに極まり。
大人になって現実を知るなんて、普通だけれど虚しいと感じてしまう馬鹿馬鹿しさ。

「寝るならベッドで寝んしゃい」

再び雅治の第三の目によって咎められる。

「眠れるものなら、眠りたいわよ」

見えない敵を睨みつけて起き上がった。
それでも警官としての矜持を失うわけにはいかない。
子どもの頃憧れた優しく頼れる姿を壊す日を作って将来この国がよい方向に進むわけがないのだ。
大人は現実を知って夢を子どもに見せるのが義務である。
ペンを握り直して書類に向かうと雅治がちょっぴり笑ったのに気づいた。

「真面目じゃな」
「黙れニート」
「家で出来る仕事が俺には多いだけですぅー」

あえて可愛い語尾で言い切った彼はきっと唇を尖らせたのだろう。
馬鹿とは思うが可愛いと感じてしまうのだからだいぶ重傷だ。とうの昔から知っているが。

「頑張りんしゃい。お前のそんな真面目な所も好きじゃよ」

ずるい男だな、と苦笑する。
これで頑張れない人はいない。あーあ、ほだされているな。愛してるな。そんなことばかりを考える。
だから雅治のパソコンの画面は見えない。
愛によって盲目なのだから、雅治の周辺は何一つ見えない。
彼がいわゆるハッキングということを行っていることすらも、私は見えてない。
見え得てないから知らない。
暴論もいい所だと、冷静な思考が訴えるのも無視して。
もう一度膨らむカーテンを見て。
愛する人といる幸福な昼下がりにほっと癒されて。
平和だね、と呟くのだ。


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