熱帯夜


ふ、と緩やかに意識が浮上したのを感じた。

「……起こした?」

ゆっくりと目を開けると暗闇に、小柄な人影。
頭を上げて目を凝らすと小声で気遣うような声。
まだ変声期知らずの高めの生意気さを滲ませる人物は一人だけだ。

「平気。何?夜這いにしにきたの?」

クツクツと笑いながら布団から出る。
するとリョーマは呆れたような仕草で首を振った。

「するならもっと色気ある人を選ぶし」
「失礼」
「目が覚めちゃってさ。喉乾いたから作り置きの麦茶無くなってたから。
 作り方知らないし。起きてたら作って貰おうかと」
「え、半分ぐらい残ってなかった?」
「先輩達が枕投げしてのど乾いたって飲み干してたけど」

ならそん時に言え。
使えない男どもだな。
……もっとも枕投げで本気になるタイプは直情型が多いから期待しても無駄だろうが。
それでもすぐに作るにしても、水だしだと時間かかる。
煮出して作っても氷でさますか。
そうと決まればリョーマを引き連れて台所に。

「リョーマって家事自分で全然しないの?」
「お茶ぐらいつくれるし。ここは場所を知らなかったから」

むっとするリョーマに肩を振るわせた。
けれど、想像するに家の手伝いなんて言われなければ絶対にやらないタイプそうだ。

「でもなんで起きたの?時差ボケ?」
「日本に来て何日たった思うわけ?馬鹿?」
「いつにも増して口が悪いわね……!」
「少しは考えて物を言えばいいのに」
「あーはいはい。馬鹿ですいませんね!それで!?なんでなの」
「暑くて」
「あぁ、確かに。最近、暑くなってきたもんね」

しゅんしゅんとやかんが鳴り始めたので火を止め氷をたっぷり入れたグラスに注ぎ込む。
残りはこのまま放置して、常温になったら冷蔵庫にいれればいい。

「ん」
「ども」

ごくごくと飲み始める。よほど喉が乾いていたのだろう。
リョーマの細い喉が上下するのをぼーとみる。

「ねぇ、寝れないなら少しベランダ行かない?」

今ならきっと夜空が綺麗だと思う。
人がたくさんいる中だと蒸し暑くて起きてしまったのだろうから涼むこともできる。

「あんたは寝なくて平気なの」
「基本夜型だから大丈夫」

リョーマもわざわざ夜に来たのは私が普段、遅くまで寝ないタイプだからだと知っているから。
渡されたグラスを手早く洗って一緒にベランダに行く。
日中、蒸し暑くなってきているが夜になると少し涼しくなって気持ちいい。
夜空の光を邪魔するものもここにはほとんどないから、はっきりと星が見える。

「普段なかなか夜空なんて見上げないけど、こういうのもいいねー」

冷たさを少し帯びた風が通り過ぎて行く。
ごろりと転がって、空を駆け込む。

「リョーマはさ。日本の事、好き?」
「なに、急に」
「長く向こうにいたんでしょ。日本って独特だし、向こうの方がよかったとか思ったりしない?」
「別に、親が日本人だからそんなに。そこそこ退屈はしないすんでるしね」

日本に来たのはたぶんご両親の都合だとは思う。
環境の変化は想像するより大変だと思う。
リョーマは何も言わないけれど。

「辛いとか、そういうの、言わないの?」
「そんな事言っても仕方無いでしょ。なら、楽しんだ方がいい」

生意気で、口達者なくせに妙な所でリョーマは純粋だ。
羨ましいと思う。
けれど、リョーマのその台詞は真理だと感じるから。

「……うん、そうだね。楽しみたいよね」

たぶん疲れていても、楽しいと思えればきっとそれで無敵なんだ。
明日からまた頑張ろうって思える。
時にはこうやって休んで。
また歩きだすのだろう。


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