そんなもの


「こっちだよ〜ん!」

昼休み。長めの休み時間と空腹を満たした生徒がより活気づく時間。
人との合間を器用にすり抜け走っていくお菊を追いかける。
走ってはいけないとか知らない。
やつは私の弁当を奪って逃走しやがっているのだから。
体力がない、とかいうけど相手は運動部レギュラー。勝てるわけがないのはわかっている。
だが食事は人間の基本。それを黙って逃すわけにはいかない。
という事で止まれ。

「止まらないと光圀公にいいつけるよ!お菊が廊下走ってたよって!」
「手塚に!?でもそれだったらは同罪じゃん」
「私は可哀想な被害者だから問題ない」
「自分で言うかにゃ、それ……」

嘘じゃない。事実だ。
だがそれでも足を止める気はないらしい。
あぁ可哀想なお菊。今日の練習メニューはグラウンド百週か。
それでも止まらないという事はよっぽど私に構われたかったという事なのだろうか。
相方にちょっかい出せばいいのに……。
唯一の救いはお菊のバランスの良さのおかげでお弁当の中身を心配せずにすむ事だろうか。
いったいどこに行くつもりか。
どうやらお菊は私を振り切るつもりもないらしく、私がついてくるのを時折確認しながら進んでいく。
途中までただ追いかけていただけだったけれど、何処へ向かっているか気付いた。

「お菊!」
「お、わかった?」

頷くとさっさと先に走りだしてしまった。
もう走るのも面倒になってゆっくりと歩く。
階段をのぼり、扉を開ける。

「わっ」

思いがけない強風に思わず目を閉じて反射敵にスカートを抑えた。

「おっそいよー!」

すぐ近くで、声。相変わらず気配なく近寄る。

「……で?何がしたかったの?」
「一緒に食べたかっただけ!」

へへ、と無邪気に言われればそれだけで仕方無いって、溜め息ついて流してしまいそうになる。
ようやく返されたお弁当を受け取って適当にすわる。
その隣に座るお菊ははぐはぐと美味しそうご飯をほおばった。
お菊と一緒に食べるとこちらのお弁当まで美味しく感じる不思議。

「あのさぁ……」
「ん?」
「手塚には話さない、よね……?」

恐る恐ると、いう感じに尋ねられたものだから思わず肩を揺らした。
なんだ気にしてるんじゃないか。

「言わないよ。天気がいいからね」
「何それ!」

気分もいいし。
光圀公の眉間の皺をわざわざ見に行く必要もないだろう。
つまり。

「そんな気分なの」

そういう事があってもいい。


戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -