ゴール向こうの


「あ」

隣で並走していた亮の声に足を止めた。

「どうしたの?」
「いや、な。ジーンズが」

苦虫を噛み潰したような顔をした亮に、視線をやる。
よく見るとジーンズの膝の所が穴が開いている。
苦虫を噛み潰したような表情で、頭を描く。

「結構、古いやつだからしかたねぇよ。寿命だったんだろ」

仕方無いという口調なのにどこか残念そうだ。お気に入りだったのだろうか。

「大丈夫?家に帰る?」
「いや、大丈夫。さっさと続き走ろうぜ」

心配で亮を伺うような私の視線を帽子を目深に被る事で躱してまた走りだす。
本人が平気というなら何も言うつもりはない。さっさと走り出す亮に並ぶ。
一定のリズムを刻む足音。程よく火照る身体。走っている時、風が切る音がするの一番好きだ。
ランニングで大切なのはスピードというよりも何よりスピードを変えない事。それからフォームだ。
なのに。
一回気にすると意識からならなか外れないのか、時折、膝に視線をやっている。
すると姿勢が悪くなるし、危ない。
声をかけるか、否か。ちょっと悩む。
慣れた道だから転んだり、何かにぶつかったりはしないだろうけれど……。

「激ダサだぜ」

ぽつりと零れた亮の言葉に目を丸くする。
もしかしてジーンズが破けてるのが、かっこわるいと思っているのだろうか。
今ではダメージとかいってわざと破けさせたりしているというのに。
勿論、自然と破けたのとそうでないのとは感じが違う。
そんな事を気にしていると思うと、笑い声をたててしまった。

「お、おい!何笑ってるんだよ!」
「りょ、亮さぁ……。ダメージって、知ってる?」
「知ってるけどよ、あれ、苦手なんだよ。軟派みたいで」
「軟派!それを、あんたが言う!?」
「はぁ!?」

あぁ、もう駄目だ。足を止めてお腹を抱える。痛い。面白すぎて。

「亮、あんたね、アハハ、髪が長かった時」

笑いがこらえきれないせいで言葉がとぎれとぎれだ。
亮も私が止まった事で足を止めたけれど、私の反応に少し怒ったように眉をつり上げている。
全然恐くないけど。

「あのさ、髪が長い時とかもろ軽いというか軟派だったよ?」
「かるっ……!あれはだな!」
「女ならともかく男が髪がお自慢で長くするとか響きはナルシストっぽいし、ね」
「俺を跡部と一緒にするなよ!」
「アハハ、ごめん、ごめん!今は兄貴だよね!」

ぽんぽんと肩を叩いてまた走りだす。

「あ、おい夏希!待てっ!」

追いかけてくる亮から全力疾走で逃げる。ランニングはいったいどこへやら。
生憎とも追いつかれるほど私は甘くない。
途中から純粋なレースに早変わりしてまった。

「か、勝った!」

自宅の塀をタッチする。半歩遅れて亮も到着。
本気で走って息が切れていてお互いの間にしばらく言葉がなかった。

「あのさ」

しゃがみ込んで休んで、息切れが収まったころに口を開く。

「後で買い物、行こっか。お詫びに買い物付き合ってあげる。
 どうせ亮の事だから自分から買い物とかあまりしないでしょ?」

うっと、吃る亮にクツリと笑って立ち上げる。
さてと。今日の予定ができたな。

「準備できたら電話するね」

ひらひらと手を振って、自宅に入っていく。
亮の家はちょうど私の家の反対側にある。
なんだかんだで私の家をランニングのコースの終着点にしてくれるあたり、ほんっと男前だ。

さて、シャーワーでもあびるか。


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