ティーパーティーの裏側で


渋る日吉君の手にお茶菓子を渡す。
嫌がっているのは面倒くさいというふうだが若干の緊張も隠しきれてなくて。そんな所が若い。そして可愛い。
学校で催されるお茶会という名のパーティーに半ば強制参加させらるのも可哀想だけど。
少しは楽しんで欲しい。私だって跡部君に頼まれたからには。それでも嫌だと言わんばかりの表情に若干、凹んでも悪くないと思う。
どうしたら、喜んでくれるのか。考えているのだけど。考えていて、友人の呼ぶ声が遠くからした。

「あ……ごめんね。大人しく待ってて」
「わざわざ言われなくてもそんな事するわけないじゃないですか……日向さん達じゃあるまいし」
「ふふ、日吉君は大人だもんねー」
「それが子供扱いなんですよ」

拗ねた日吉君の頭を撫で、振り払われる。ちょっとした恒例だ。身を翻して友人の下へ。

土曜日の午後、こうやってお茶会を開くのは氷帝ならではだと思う。
テニス部が参加しているか居ないかでだいぶ変わる。それは跡部君は理解している。
生徒会主催という形だから、期待している子も多いのだ。
だからこそ嫌がる日吉君とかの相手を生徒会の一員である私に相手をする命が下るのだけど。

適当に話を切って日吉君の姿を探すとやっぱりというかいなくて軽く落ち込む。
跡部君の顔を立てて帰ったりはしないだろうけれど……。
探しに、行かないとだろうな。仕方なしに校舎を出る。
午後三時を少し出たこの時間帯は穏やかだ。散歩するのは最適な陽気。ほのぼのとした日和はいるだけで楽しい気分になる。
すぐ見つけると日吉君も心休まらないから、歩みはのんびり。
テニスコートにたどり着いているかと思ったのにいなくて拍子抜けした。ベンチに座って誰もいないテニスコートを眺める。
横向きの陽光の反対側には、長く伸びた自身の影が横たわっている。
丸みを帯びた日差しは計らずもからだをぽかぽかと温めてくれて気持ちいい。

「……先輩」
「あ、日吉君」
「探しましたよ」

日吉君の言葉に首をかしげる。いつの間に探されていたのだろう。私は。

「俺を探しておきながらここで休んでいるとか何考えているんですか?」

あきれ顔の日吉君。……成る程。

「アハハ……。それより日吉君はどこに行ってたの?」
「普通に、お手洗い行ってただけですけど。長倉先輩の早とちりですね」
「それで私を探しに?」
「先輩が隣にいないと跡部先輩が後で五月蝿いんですよ」
「ふぅーん?ふぅ〜ん?そうなんだぁ〜」
「な、なんですかその反応」
「いえいえ。別になんでもございませんよー」

眉間に皺を寄せられてしまった。こうやってなんだかんだ理由をつけて誤摩化す。だからからかわれるのに。

「と、とにかく本当に目が離せない人ですね。……首輪でもつけたいぐらいです」

溜め息をつく日吉君。首輪はちょっとな。

「ペンダントとかないいんだけどね」
「ペンダント……?」
「ま、もっとも日吉君はそういうアクセサリーとか持ってなさそうだけどね」
「持ってますよ」
「え?」

ポケットをまさぐる日吉君。すると出て来たシンプルな銀のペンダント。小さな星が先端についている。

「……なんで持ってるの?」
「細かい事は気にしないで下さい」

なんだがげんなりしてるいるから開いた口を閉じた。なんだか一悶着あったみたいだ。
女物って感じだから絶対に自分用に買ったわけではないんだろうと思う。

「誰にあげるの?」
「夏希先輩って本当に鈍いですね。このタイミングで出したら貴方以外いないでしょう」

後ろに回り込んで手早くペンダントをつけられた。

「ありがとう。本当にいいの?」
「貴方以外に渡す人がいませんから。ほら、先輩。お手」

差し出された右手とにやりとした顔をした日吉君を見る。
仕方無いから乗ってあげるか。

「わん」

手を重ねて立ち上がる。早く戻らないと跡部君に嫌味をいわれちゃう。

「ねぇねぇ、お茶会、嫌い?」
「別に……けど、先輩と話しているのはそんなに嫌いじゃないです」
「嬉しい事言ってくれるじゃない」
「わ、ちょっ、やめて下さい!」

犬がじゃれつくように日吉君に抱きつくとのけぞって体を引く。
それでも楽し気な私を見て諦めたのかぷいとそっぽを向く。
可愛い反応をする後輩を見て笑みを零した。


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