贈り物


携帯電話にぶら下がる、一つの小さな石がついているストラップ。
つやのある深緑色の石。
翡翠、なのだけれどそんないいものではない。
所詮学生が買うものだから良質なものは買えはしない。本物だけど、質はよくない。そんな所。
パワーストーンの店で買ったのだし仕方無いというか当然というか。
けれど色がとても気に入っているのでそれでいいかと思う。
机に置いてある携帯をぼーと見つめる。

「何をしている?長倉」

凪のように穏やかな音声が上から落ちて来た。視線をゆっくりとあげると柳が私を覗き込むように見ている。
椅子に座っている私に対して、立っている柳。見上げ続けると正直首がいたくなる。
どうすればこんなに長身になるのか。少し聞いてみたい気がする。牛乳だろうか?けれど牛乳好きの柳って。

「おい」
「あ……うん。ごめん。えっと何?」
「何をしているんだ、と聞いたんだ」
「いや、特に何も。ボーとしてただけだけど」
「その携帯ストラップ。新しいな」
「あ、うん。そうなんだ」

人の話きけ!柳なら気づいてもおかしくないけどなら聞くなって感じだ。
私とこのまま話し込む気なのか前の席に無断で座る柳。そこ、青井の席。けど青井はどうせ柳には敵わないか。

「柳ってさー……どこまで個人情報把握してんの?」

素朴な疑問。けれど柳は何も言わずにただしとやかに口元に孤を描くだけ。
聞くなという事だろうか。知ったらなんだか恐い事になりそうだ。
ある意味、それは主にテニスの試合におけて、えげつない事をする柳。
なのにそれを感じさせない浮世離れした静かな雰囲気なのだ。顔も綺麗だし。
性格と顔と関係ないかもしれないけれど……。
それでもやっぱり柳って綺麗な顔している。頬杖をついて柳の顔を見つめる。

「俺の顔を見て、どうした?」
「さぁね」
「長倉は相変わらずだな。それで、長倉。お前、その携帯ストラップ気に入っているだろう」
「うん。わかる?」
「あぁ。長倉は気に入るとずっと見ている癖があるからな」

そんな癖があるのか。自分でも気がつかなかった。いや、案外、自分の事だからわかんないだろうな。

「いい色をしているな」
「ありがと」

ついと石を見つめる柳。石と柳を見る私。
そういえば柳って緑って似合う。
葉の濃い緑とか。そういうの。
だからこの深い色の緑もきっと柳に似合う。

「……いる?」

じーと見ている柳を眺めていたらなぜかぽろりと零れた。
弾かれたように私を見る柳に笑い声を出してしまった。

「気に入った?」
「長倉がな」
「でも柳の方が似合いそうだなって。それに、なんだか欲しそうだった」

クスクス笑いながら携帯のストラップを取始める。気に入っているけど高くないし、柳の方がきっといい。
けれど柳が携帯を触る私の手を遮る。

「お前のものだろう」
「……素直だねぇ……」
「何がだ?」

心底不思議そうにする柳。なんだか今日は珍しい事ばっかりだ。

「欲しいって否定しないんだ」
「……悪くないとは思うからな」
「ね。だから。あげる」

手際よく取って柳に渡す。おずおず受け取ってくれる。

「では、代わりに」

今度は柳の携帯についていたトンボ玉を渡されてしまった。一番好きな色のトンボ玉。
いかにも高そうだ。

「これ、高いんじゃないの?」
「そんな事はない。それに長倉と交換というのも悪くない。牽制になる」
「はい?」
「わからないなら、いい。ただで貰うのが心苦しいだけだ。受け取ってくれ」

悩んでいるうちに、携帯につけられてしまった。

「なぁ……柳」

おずおずと、声を挟まれた。

「あぁ、青井か。済まなかったな。今どく」

案外あっさり引いたことに青井は安堵した様子で、溜め息をついた。
なぜだか柳は青井に鬼畜だからな。
チャイムがちょうど良いタイミングでタイミングで鳴り柳が消える。

「……長倉。柳とストラップ交換してたのか?」
「うん」

翡翠と変わってトンボ玉がついている携帯。
翡翠も好きだけれど。
こっちの方が断然好きなのはなぜなんだろう。
何かの予感を感じる。
けれど、それはまだ。
気づかないままで。


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