02


時々そっぽを向いたような風が混ざるり始め、透明感も増してきた空を見上げた。
朝夕は涼しさも覚えることもあるが暑さの方が勝り秋と呼ぶには少しだけ焦燥のような。
しかし今まで散々わめいてきた蝉が息を潜めると、同じようにして秋の訪れを心待ちにしてしまう。
とんとコンクリートを蹴る足の、その裏から伝わる熱気がないことに口角を上げて、学校へと続く坂を上り下りする。
最寄り駅からの通学路は坂が多いのだ。多くはなだらか坂だが、直前にかなり急勾配な坂が一つ。
通称「全力坂」
いつから呼ばれているかはさだかではないが、教師まで使うこの名称がつく内輪限定の有名スポット。
この坂は部活でも全力疾走で駆け上がるのを何度でも行うせいで嫌な思い出が滲んでいる。ただでさえ徒歩でもキツいのにだ。
また遅刻しかけの者にとっても最大の難所で、ここで体力を使い果たしてしまう者も多い。
俺もこの坂は嫌いだ。ただ、教師は御陰様、と言う。この坂のせいで遅刻ギリギリに登校する無謀な者の数を減らしているのだ。

坂を登り切れば、立海の荘厳な校舎が現れる。
そして潮風に靡く緑の黒髪。陽を受け若々しく輝く髪が空と海の青によく映えていた。
立海の制服は大人しいデザインであるものの彼女が着れば華やかさが加わる。
華族。お嬢様。時代が時代であったらきっと、そういう存在だと思わせる何かがある。

彼女。「お姉様」。
東雲有沙。
委員長だから中三かと想像していたがさる筋から聞いた所中二だそうだ。

そしてその隣の「大和撫子」
愛想のあの字もないような表情で、いかにも真面目で、委員長肌のような、古き良き女子学生という趣の少女。
氷室弥生。風紀副委員長……ではなく美化委員長。同じく中二。
美化委員なら幸村は氷室先輩を知っていただろうに、何も言わないあたり人が悪い。

一見して反りの合わなさそうな二人だが、所謂幼なじみで付き合いは長いらしい。
似すぎるより凹凸の方が付き合いやすいものなのだろう。
見た目の好みは「お姉様」
突飛な行動が計算なら良いが馬鹿故ならば正直「大和撫子」の方。
美人だからといって能無しは論外だ。逆に言えば美人でもなければ頭がよければその方がいい。

二人は服装検査として他の委員も引き連れて校門に立っている。
視線を巡らせるが今日は真田は当番ではないようだ。彼の場合それでもいる可能性もあっただけに一安心である。
じっと見ていたのを気づかれたのか東雲先輩と視線が合う。
ふ、と口端を緩めて見せれば彼女は眉を顰めてしかし彼女は無視を決め込むことにしたのだろう。
氷室先輩に話しかける。そういう嗅覚は、嫌いじゃない。
さて、放課後が楽しみだ。



「そういう気はしていても、気は進むものじゃあないね、銀髪後輩君」

放課後。部活のない日の、下駄箱に東雲先輩はいて、気だるげに壁にもたれかかっていた。
予想はしていたから驚くこともなく自分の靴に手を伸ばす。

「その割に先輩はお一人なんじゃな」
「弥生は自分の委員会のお仕事。それにあの子と君は相性悪そう。
 それにしても、真田弦一郎後輩を見た時も思ったけれど今年の一年は曲者ぞろいねぇ」

笑っているが、興味なさそうな瞳が俺の姿を捉えている。否、映している。
黒曜石のような瞳は底が見えないくせに引き込まれるようで、妙にそそるものがあった。

「言っておくけれど、君だけよ?」

反省文、と東雲先輩は上履きを下駄箱に入れる動作を見守りながら言った。
丸井は奔放だがあれで神経質でああも脅しをかけられたら書いてしまうだろう。
ジャッカルもいるし。幸村、柳も面倒事は回避したい欲の方が強い。
何より先を見通して動いている幸村は部長になるにあたって潔白であろうとしているが故に事は荒立てない。
真田より注意すべきは幸村であるが面白い事も好きな面もあるので適当な所までは放置されるはず。
つまり暫くは書くつもりはない。し、それを彼女も悟っている。
期限はまだだが早々に接触したのはそういうことだろう。

「……ピヨ」

明らかに誤魔化してみれば眉がピクリと動いた。
求めることは、先輩との接触である。

「相性が悪い、ねぇ……」

先輩に背を向ける。引き止められはしない。
この先輩のことは正直大変興味深いが、もう一人ももう少し話してみたい。
さてはて東雲先輩はどう出るか。

 



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