01


じりじりと残暑の厳しい、夏の終わり。
いつかの熱情を溶かし込むように輪郭がぼやける夕日を背に仁王はテニス部の同輩と共に校門へと向かっていた。
行動を共にしようと意識はないが、それでも必要があればそうする合理的な思考が自然とそうさせている。
団体の後方できゅうっと結びながら黙々と歩いていると、丸井が力の抜けきった溜め息をついた。
だらりと腕を垂らして背中を丸めた姿に真田が右眉を上げる。

「あれしきで疲れるとは体力がなっていない証しだ。たるんどる」
「俺の妙技は集中力が大切なんだよ」
「それを含めての体力だ、丸井」

いさめる柳に丸井はぐ、と眉を顰めた。
技は繊細なテクニックを要するせいかそれ以外になると丸井は頭を働かせたがらない。故に基本的には単純な男だ。
なにもテニスに限った話ではない。スポーツというものは技術だけでは勝てない。
現時点、次期レギュラーとして可能性があるのは事実だからいいのではないか、とは言った。
ただ既にのこの中でレギュラー入りしている三人組、特に参謀の役割を担う男が何故見出そうとしたのか。
空をひっそり仰ぐ。
今は紺碧の空が広がるその裏の色。果てしない青。
ぐにゃりと空気が歪み、蝉が破裂しそうなほど鳴くあの季節。見せられたあの熱気。
今年は時期ではない。まだ、必要なピースが足りないのだ。

「おっそーい!!」

校門が目前になろうとした時。そんな声によって、思考を遮られた。
まるで約束の時間に来なかった彼氏に文句を言うかのような、そんな言い方である。
有り体に言えば。不満そうな声であった。たらたらで。だらだらだった。
暗くてはよく見えないが女。
そしてその声の発した人物は校門にいた。
校門、と表現すれば当然のようであるが、しかし、彼女がいたのはもっと変、というか可笑しい。
彼女のいる場所は校門と同じ座標。つまり、校門の両脇にある塀の上だった。
仁王立ちで堂々と。いっそ清々しいまでの立ち姿。
校門の上に仁王立ちしている女に、怒鳴られた。
驚きの登場に仁王は目ほ細めその人物をまじまじと観察する。
凛々しく、いかにも「お姉様」という感じ。
制服こそ規則に触らない程度の崩し方だが下手に露出してるよりよほど色気とかが滲み出てる。
誰だ、とジャッカルが言ったのを遮るように声が重なった。

「委員長!?」

と。真田である。委員長。
真田は風紀委員である。しょっちゅうお世話になっているが大切なのはそこではない。
真田が委員長と呼ぶ。つまり彼女は風紀委員長なのである。風紀委員長。つまり、そういうことなのだ。
門の上に立っているような人物が!?となる周りの驚きをよそに風紀委員長なる人は口角を上げた。

「真田弦一郎後輩、こんばんは」

きちんと返事を返す真田は律儀だと思う。
真田の返事に鷹揚に頷いてから、彼女はとぅ!というかけ声と共に塀から降りた。
さらりとした髪が跳ね上がる。一拍遅れてスカートの裾が到着。

「こら!はしたないじゃないですか!!」
「えー」

むぅ、と唇を尖らす仕草は見た目より幼い。
破天荒だし、凛々しくて近づき難いのが気さくに映った。
見た目のギャプはあるが別に可笑しくないし、むしろこの場合は好ましい。

そして彼女の印象が強すぎて、たった今、気がついたが飛び降りた彼女の隣に一人の女。
「お姉様」とは違い、氷みたいな研ぎすまされたような女。
髪を結い上げて、姿勢正しく立っている姿は上品な日本人形みたいである。
片方が委員会だから副委員長だろうか。

「あの、委員長……?なぜあんな所に」
「何故!それを聞くのか、真田弦一郎後輩は!」
「最終下校時刻をとうに過ぎています。一度ならともかく、仏の顔も三度までですよ」
「風紀委員たるキミがいるのになんでこうなるのかな?ん?」

と、真田の頬をむぎゅっと摘んで引っ張っている。
真田、の、顔を、だ。
勇者だと丸井が呟く。

「本当ならば部活動停止にしてさしあげようかと思ったのですが……」

物騒な発言に皆が固まる。が、実績のあるテニス部を止めるなんてできはしないだろう。

「今回は反省文で済ましてさしあげると、委員長が。
 本当、委員長はあま、コホン。優しいですよね。感謝しなさいな」
「ちょい待ち!今、甘い言おうとしたでしょ!」

因みにこの間も真田は頬を抓られている。誰か突っ込まないのだろうか。

「さてなんの事やら。けれども、次やったらわかっているでしょう、ね?」
「風紀委員が部活動を停止できる程の権力を持っているとは思えませんが」
「言葉は慎みなよ、柳蓮二後輩。理由があればいくらでも出来るんだから。
 例え、関東大会何連覇であろうともね」

ようやく真田から手を話した彼女は艶やかに微笑む。剣呑な色を宿したかと思ったら、次には朗らかに。

「ま、今回は忠告だから。時間、意識して欲してねって事。書けば覚えるでしょう?
 一人三枚。真田弦一郎後輩に渡して纏めて提出って事で宜しくさん。
 じゃ、気をつけて帰りな、青少年達。それじゃ、行くよ」

彼女達は言いたい事だけを言って学校の中へと消えて行ってしまった。

「あん人達……先輩?なんで校舎に行くんじゃ」
「最後の見回りは風紀委員の仕事だからな」

真田が何故か誇らしげに答える。頬が赤いから正直、ぜんぜん決まってない。
幸村が面白そうに笑った。

面白い。テニス部へのこの態度。
破天荒ぶりに口が挟めなかったが楽しませてくれそうだ。
最近、あまり遊べなかったからいいものを見つた。
これから楽しくなりそうだという確信めいた予感に内心、心が弾むのを抑えられ切れなかった。



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