16


夢はいつか覚める。
終わらない話はなく、死なない生はない。
なんだってそうだ。
始まると、終わる。
季節が巡り同じ場所に花が咲こうともそれは決して同じものではないと気付いたのはいったい何時だったか。
終焉なんていらなかったけれど、あの結果の結末なら私は受け入れなければならないのだろう。
馬鹿な弦君。優しすぎて切り捨てる事なんてできないんだから。
だから私みたいな人間に依存されて足元を掬われるんだ。

「ごめんね、切原君」

私の嵐に謝ると肩を揺らす。あのような展開の中で黙っているのはとても居心地の悪いものだったのだろう。

「そこの貴方も」
「いえ。私がしたかったからしただけです」

小さくともしっかりとした答える。強いなぁ、って思う。
私も強くありたかった。

「飛び降りた時ね、死んでも、助かってもどっちでもいいって思ってた」
「おい」
「そう怒らないでよ、弦君。本音なんだから仕方無いじゃない」

それでも納得いかない弦君に思わず笑ってしまった。やっぱり彼が好きなんだなって改めて感じる。
弦君の気持ちに気付いていたし結衣ちゃんの思いにも。
恋心と友情に揺れて全てを放棄して、飛び降りたのだ。思考するのがいやになったのだ。

そんな私を見越してなのか、どうなのか、結衣ちゃんと「カケ」をした。
今回はいくつもの「カケ」が重なって出来ていたのだと思う。

始まりは私。
生きるか、死ぬか。
わかっていて、考えないようにしていた弦君を束縛するという事実。
予想外に私を避けてしまったけれど。

そこで結衣ちゃんはこうもちかけた。
罪の意識で私を避けている弦君を自分の意志で私のもとにこさせてあげよう。
その代わり、来たら弦君を解放しろと。
私は最初それを突っぱねた。会えなくても私という存在が弦君に刻み付けていられればいいって思ったから。
なんて犯罪者予備軍なんだろう。笑ってしまう。
弦君を解放したら、二人だけの世界を作ってしまう。私を置いて。

『なら、二週間、時間を私に頂戴。成功してもしなくてもそしたら私は立海からいなくなる』

結衣ちゃんはそう告げた。どんな思いでいったのだろう。
けれど、ああずるいと思った。
私と同じ事してるじゃないかと、思った。
そんな事したら弦君は絶対に探し出そうとする。
弦君は悩んで、悩んで一度止まっても結局はそうする。だから弦君は私の太陽なのだ。

だからまたカケをした。
それならば、何も言わずに去る事。連絡を取るのも禁止。
弦君が結衣ちゃんの、強くて、ずるい所を知ってそれでもなお受入れるというのなら。
その時私は敗北を認めようと。

結局、結衣ちゃんの思いとおりになったわけだけれど。

「……それとも、こうなるってわかってたのかな」

あの子の事だから、みんな見透かしていても驚けない。
それだけ狡賢いんだから。でも嫌いじゃない。
私みたいに捻くれた子に付き合えるのは弦君みたいな純粋すぎる人か、同じぐらい狡くないと無理だろう。

「大倉先輩は凄いと思います。あんなに力強くぶつかっていけるんですから。
 私、臆病で気弱ですぐ黙りこんじゃいます。やった事は褒められる事ではないですけれど。
 それでも、羨ましいって感じました」

小さく、でもはっきりと告げられて驚く。
同情とかお怒りの言葉ならたくさん貰ったけど羨ましいは初めてで。
彼女は何か告げたくても告げられない何かがあるのだろうか。
けれど人というのはみんなそんなものなのなのだろう。
隠し事もあるし嘘もつく。
ただ告げられた事を馬鹿みたいに信じることしか私達にはできない。
真の言葉の存在はどこにもなく、あっても意味をなさない。それが私達という生き物だと思う。
そしてだからこそ救われるものもある。そう信じたい。

「ねえ、弦君」
「なんだ」
「私、また恋するよ。何回失敗しても、何度でも恋をする。自分の納得する人と納得する未来の為に。でもね」

「けれど、きっとどこか弦君に似てる。特別だから。どんな時、どんな場所でも弦君の面影を追いかける」

ふいに柔らかい声が鼓膜を震わせた。

「……結衣ちゃん」
「久しぶり、みんな。元気だった?」

まったく変わらない彼女の笑顔がそこにあった。



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