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光をたっぷりと浴びて緑が、人が、輝いている。
初夏の香りを感じた。
思えば生命の芽吹きに気づいたのはついこないだのようだったのに季節が巡るのは速い。
歳を取るほど時間の流れは速いというけれど、本当だ。
何故だろう。
世界が広がったから?
それとも日々に追われているから?
確かに私はのんびり屋でゆっくりと眺めていたい性格ではある。
けれど色々な事がたくさんやってくるのは悪い事ではない。そう思うようになった。

「元気でな」

仁王くんの言葉に頷く。
わざわざ見送りに来てくれた立海のみんな。それぞれと言葉を交わす。

「お母さんの事とかも、頑張ってみる」

性格が違うから理解を貰うまで苦労するけれど、負けない。
きっと何もしないと後悔する。諦めたく、ない。
辛くなったら仁王くんの事を思い出す。そうしたら頑張れるから。
私の中の意識を芽吹かせてくれたのは仁王くん。あなた。
気付いてくれた。励ましてくれた。
それだけで、どれだけ私は強くなれたのだろう。

「だから待ってて」

仁王くんの隣に並べられるぐらい強くなる。胸を張っていられるぐらいに。

「俺は待たんよ。先に進んでおくから追いつきんしゃい」
「……うん!そうだね」

この頭を撫でる優しい温もりとは暫くのお別れ。

「また、ね」

また、絶対に会おう。


大阪に帰ったら心配してくれた美羽ちゃんがわざわざ大阪駅まで出迎えてくれた。
ゴールデンウィークにあった良いこと。辛いこと。みんなみんな話した。
少しだけ前に進め始めた私の変化に驚いたみたいだけれど、受け入れてくれて。

「思った事しっかり言ってくれるんやもん!嬉しいにきまっとるやろ!」

なんて興奮気味に抱きついてきて私が吃驚したぐらいだ。
受け入れてくれる人がいる。そんな喜びを噛み締めて。
四天のみんなとももっと積極的に付き合いたい。
それには様々な苦労もあるだろうけれど……。

お母さんは帰ってきた私に対して微妙な顔をしながらもどこかほっとした表情を見せてくれた。
私の為を思っていってくれるわけで、悪い付き合いをして欲しくないと思うのは当然だ。
ただ仁王くんが大切と思う気持ちだけでそれを受け入れられなくなっていた私の責任もある。

「私ね、仁王くんの事が好きなの」

だからここから始めていく。お母さんに話さなかった事。
仁王くんがどんな人か。どんな事を一緒にしたか。
素晴らしい日々を話そう。
だから、大丈夫だと伝えよう。
これが私とお母さんの第一歩。


ねぇ、仁王くん。
私達はこれから沢山の困難にぶつかると思う。
理不尽だったり、挫折感を味わう事もある。
怒りにくれ泣きたくなり絶望の縁に落とされても、ただその現実を嘆くだけではいけなくて。
その先にある輝けるものを見失ってしまうから。
だから私はこれから沢山のものに触れ沢山の経験を積んでいこうと思う。
たくさんたくさん失敗しても完全に歩みは止めはしない。

本当に辛い時は例え如何なる事でも支え、応援してくれる人が絶対に一人はいる。
そんな幸せが当たり前のように存在する奇跡を私達は知っているはずだから。

だから、仁王くん。
遠くにいるあなたを思うだけではなく今いる場所も大切にすると誓う。
目の前にある、あの空を想おう。
今いる場所でやれる事を一生懸命に生る。


ざわりざわりと人の波が溢れかえり、大きなうねりが一つの音を作りだす。
ムーの群は相変わらず健在で。
携帯を確認。小春ちゃんの情報によればここで平気なはず。
一つ、二つと深呼吸。大丈夫。
心臓が嘘のように暴れているが、それは緊張感だけではなく高揚感もあるのも実感する。
目を閉じ、落ち着つかせる。そして開けた時。
遠くに雪原のような髪が目についた。私に気づき、明るい琥珀の瞳を見開く。

「約三年ぶり、だね」
「……じゃな。なしてここにいるん?」

驚かせたくて黙っていたのだ。

「私、立海大に進学したんだよ。一人暮らしするの」
「よく許したな」
「正直まだ完全に理解をもらったわけじゃないの。でも好きにして良いって言ってくれて」

その際にお父さんの助力があったのは特筆すべき所であろう。

「ね、他のみんなは?」
「もう少ししたら来ると思うぜよ」

勿論仁王くんにも会いたかったけれど、みんなにも会いたい。
ほんの少しの時間しかいられなかったからこそ。

「じゃあ、こっちから行こう!みんなも驚かせたいんだ」

私から仁王くんの手を取って歩きだす。

「大丈夫なん?」

何がだろう。ファンに見つかる事?でもそんな事は些細な問題だ。
また怪我する事を危惧しているのかもしれない。でも私はあの頃の私とは違う。

「みんなと会える方が大切だよ」

危険を考えて物怖じするだけでは前に進めない。大切なものを見失ってしまう。
慎重になる事と物怖じする事は全然違うのだ。

「……えろう変わったの、白川」
「そう、かな。自分ではわからいけど」
「サバサバしてるし活発的になったぜよ」
「嫌?」
「そんな事ないぜよ。むしろ」

ゆっくりと口角をあげる仁王くん。
大人びた優しい表情。色気もさらに磨かれた仁王くんの余裕たっぷりの包みこむようなそれに見惚れる。

「ずっと魅力的になったなり……里香」

かぁ、と首筋が熱くなったのを感じる。どうしよう。仁王くんはずるい。
追いついたと思ってもずっとずっと仁王くんの方が上手だ。

「ハハ、やっぱり変わっとらんの」
「酷い……」
「ピヨ」

根本的な性格はなかなか変えられるわけないじゃないか。それに免疫ないのだから。
変わったというのならば、それはそうなるように努力しただけ。もっと好きになれる自分になるために。
一言では言い表せない様々な経験を超えて。それをどう言い表そうかと考えあぐねていると。
みんなの姿が見えた。みんな大人っぽくなっているけれど、やっぱり面影はよく残っている。

「ま。近くにいたら悪い虫の心配も少なくなるしな」
「え?」
「なんでもなかよ。ほら、行くぜよ!」

急に走りだす仁王くん。思いっきり引っ張られる。速い速い。
風を切るというのはこういう事を言うのだろうか。私の運動神経では体験できない速度だ。

「ね。仁王くん!」
「なんじゃ」
「これからはずっと一緒だよね!?」
「勿論ぜよ!」



そう。
また会えるその日まで。

私は、確かに、ここにいる。


END.
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