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「あ、ちょっと…っ」
 千鶴ちゃんをほったらかして、彼はそのままずるずると僕を引きずって近くの空き教室に滑り込んだ。
「……」
「話ってなんです?僕、あの子を送ってくつもりだったのになぁ」
 もっと言い訳らしいことなかったんですか、土方さん?
「……」
 泣きそうな顔で首を無言で横に振る。黙ってても分かりません、といったら、震える唇が「やだ」と動いた。我が儘。
「図書館でね、勉強教えてあげてたんですよ。彼女が次のテストで赤点採っちゃったら、マネージャーの仕事が疎かになっちゃうんですよ?部長さんはそれでいいんですか?」
 話せば分かる、はず。この人はいろいろ厄介だけど、部活は特別なはずだから。
 いつもよりずっと優しい口調で説き伏せながら、すっと肩を押して壁際に追い詰める。複雑そうな、気まずそうな、よく分からない顔をしてる。彼が肩に掛けてたスポーツバッグが音を立てて床に落下、した。
「心配なんですか?」
 黒髪がさらさらと左右に揺れた。
「じゃぁ、怒ってるんですか?」
 さら、と髪が揺れたのが視界に入ると接吻されてた。頭を撫でると首に腕が絡み付いてくる。右手だけ。ちょっとやばいかもしれない、と今更気付く。あの時千鶴ちゃんを置いて土方さんに引っ張られてきて正解だったのかも。
「もういいから…」
「ばか…」
 ちょっと傷付く。
「大丈夫です、僕はここにいます。貴方から離れたりなんかしませんよ」
「総司」
「無理に縛り付けようとしなくても、傍にいます。絶対に捨てません。僕には貴方しかいらない。貴方がいれば他の人間なんてどうなってもいい」
 だから、どうかお願い。貴方に傷付いて欲しくないし、傷付けて欲しくない。
「…この前斎藤と一緒に職員室にいただろ」
「先生にノートの提出頼まれたんですよ」
「昼休みに平助と一緒に弁当食ってた」
「平助が弁当を忘れたから僕が分けてあげた時ですか?」
「左之に身体を触られてた」
「ああ、左之さんが格闘技の技の練習台をさせろとか言って…」
 それから山崎が、ともごもご何なら呟く土方さんの左手首を掴んだ。一瞬身体が強張る。
「全部全部、貴方以外はどうでもいいよ。大丈夫、何も楽しくないし、貴方がいないと淋しくて死んじゃいそう」
 くすり、と歪む唇を塞ぐ。これが僕の幸せなんだろうね。
 全部知ってた。はじめ君の靴に画鋲が入ってたのも、次の日平助のお弁当がゴミ箱に捨てられてたのも、左之さんの鞄にカッターの刃が入ってたのも、全部黒い髪の誰かさんの噂が付きまとってたってこと。
 彼のポケットに手を忍ばせて、土方さんの手のひらとそれを一緒に取り出す。冷たい痛みが皮膚を裂いた。
「愛してますよ、土方さん」
 血塗れの指先を絡め合うと、握っていたせいで熱くなったナイフが床にからんと落ちた。



end



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お題無視ですみません。ヤンデレな土方さんばっかり書いてたら病み方さんしか書けなくなってしまった…。



 


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