短編 | ナノ
ワイドショーの司会者が「あ、御幸選手がみえたようです。これから会見が始まるようです」と少し早口で伝えると、画面の中央の一也が一礼して話し出した。
久しぶりに見た一也の顔は緊張なのか真剣さからなのか少しだけ鋭くて怖いくらいな表情だった。
「本日はお忙しい中急遽お集まり頂きましてありがとうございます。
私事で世間をお騒がせして申し訳ありません。
現在報道されている内容に関して話しておきたいことがありまして、お集まりいただきました。この様な場をありがとうございます。
」
熱愛報道に関してですよね?
記者の質問が飛んで、一也は「そうです」と答えた。
私もくらもっちーもただ静かに画面を見つめていた。
「初めにはっきりとお伝えしておきたいのは報道されているようなことは一切ありません」
お泊まりの写真は?
「あの日はチームメンバーと飲みに出掛けていました。確かにあの方も参加されていてご挨拶もしましたがそれだけです。
一緒にマンションに帰ったわけでもなく、時間差であの方がマンション前で降りたのは少なくとも俺の部屋に来る為ではないです。」
きっぱりと一也は言い切った。
お相手の方は良い関係だとおっしゃっていましたが?
「週刊誌が写真からありもしない噂を書くくらいなら何も言いはしません。けれど、あのコメントには正直憤りを感じています。どういう意味で仰ったのかこちらが聞きたいくらいです。」
そう言って一也が画面をしっかり見つめてはっきり言った。
「それに、私には学生時代からお付き合いをさせて頂いている女性がいます。結婚も考えています。ありもしない今回の記事のおかげで、彼女が傷ついています。今、この瞬間もです。大変迷惑です。どうか分かっていただきたいと思います」
突然の告白に一瞬記者もワイドショーの司会者達も、もちろん私も一也の言葉を聞いていたすべての人が固まった。
えっと…御幸選手、それは…
「言葉のままです。」
ご結婚報告会見という事でよろしいですか?
「それは彼女に答えを聞いてからまたお話します。これで以上です。本日はお集まり頂きありがとうございました。」
立ち去ろうとする一也に記者がお相手はどんな方ですか?と聞いた。
「一般の方なので、迷惑をかけたくないんです。
同じ年の大学生です。向こうの卒業のこともあるので結婚も来年以降になると思います。
可愛い方ですよ。」
にっこり笑って一也が部屋から出ていくのが画面越しに写っていた。
テレビでは会見の中継から司会者に映像が移り、ワイドショーでは御幸選手結婚!と話題と相手がすっかり変わっていた。
!?
会見が終わって五分もたたず、携帯が着信を告げて、放心状態の私達はびっくりし過ぎた。
着信はもちろん一也だった。
10コールしても切れない着信にようやく私は手をかけた。
くらもっちーも「出てやれよ」って苦笑いをしてくれていた。
「もしもし」
「ようやく出てくれた」
「ご「ごめん」電話に出なかったことを謝ろうとしたら、謝罪を遮って一也の謝罪が聞こえた。
「不安にさせてごめん。」
「う…うん」
「会見で言ったとおりだから、本当に、本当に何もない。つーか多分あれ、ハメられた。あそこで降りて写真だけ取らせたみたいだし。だけど、やっぱり名前を悲しませたのは俺だからごめん」
「私もね、一也のこと信じられなくてごめんね」
「それ、すっげー傷ついた。」
「ごめん」
「うそ、写真とか上手く使うし、毎日報道されたらそりゃ信じるよな。あのアナウンサーも意味深なこと言うし、困るよな、ああ言う裏工作。そんなに野球選手の妻になりたいかね?」
「一也が好きだったんだよ」
「だとしても、やっていいことと悪いことがあるよな。結果名前を傷つけるとかムカつくし。」
「ありがとう。」
「あー悪い呼ばれてるわ。チームの上層部にもさ、簡単な説明しかしないで会見やらせてもらったから怒られてくる。また夜連絡するよ」
「うん、待ってる」
一也が電話を切るのを待っていたら、「会見で言ったこと全部本気だから。また改めて、な」言うだけいって電話は切れた。
電話が切れてもしばらくは放心状態だった私に、くらもっちーが「良かったな」って笑ってくれたから、夢じゃないんだって涙が溢れた。
その日から連日ワイドショーは御幸選手結婚、お相手は高校時代の同級生!!とネタにされたものの2週間もすると落ち着いた。
別に私の所に取材が来ることもなく、私は相変わらず普通の日常を過ごしてる。多分これは一也が上手くやってくれているんだと思う。
変わったことと言えば、あれから一也
はすぐに私の両親に挨拶に来て、私は一也の部屋に引越した。
卒業と同時に結婚する予定。
なんかまだまだ先だし、まだ夢みたいだけど。
それからあの会見が何故か凄く評価されて一也にはファンが増えた。
本人はわけわかんねぇって言ってるけど、私はわかるなファンになっちゃう気持ち。
あれを見て、一也を信じようって思えた。
一也なら大丈夫って、そう思えたから。
あの日の君にサヨナラを。
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