短編 | ナノ
結局LINEには、今は聞きたくない。ごめん。とだけ返信した。
くらもっちーが居てくれて良かった。
1人じゃきっと何も出来てなかったから。
結局日付が変わるまで飲んだ私達は、重い腰をあげて店を出た。家に帰って1人になって、1人で泣くのが怖い気持ちが私の腰を重くしていた。
だけどいい加減帰らなければ。くらもっちーにもこれ以上迷惑かけられないし。
「今日、1人で平気か?」
「大丈夫。ありがとう」
「さっきよりマシな顔になったけど、表情死んでんぞ」
くらもっちーが控えめに「今日は俺のとこ泊まるか?」なんて言ってくれて、もちろん断ったけど、「取材とか来ないか?付き合ってるのバレてたりしないのか?」なんて言われて、誰にも話してないから有り得ないそう思ったけど、有り得るのかな?
そう思うと少しだけ怖くて、言葉を詰まらせたら、「何もしねーよ」って笑うから私はくらもっちーについて歩き出した。
一也がプロになって有名になって、人気者になって、最近は一緒に歩くなんてなかった。
隣を歩くなんて出来なくて、会うのはいつも一也のマンション。
会いたいって連絡が来たら会いに行くだけ。
一也はずっと野球しか見ていなかったから、学生時代から恋人らしいことなんてほとんど出来なくてデートも数えるくらい。
それでも会えば優しかったし、愛されてるってわかってたから我慢できた。
だけど、やっぱり身の丈にあってなかったのかも知れない。
一也が好き。それだけでここまで来たけれど、私にはそれしかない。
他には何も無い。
だってまだ私は学生で、向こうはメジャーも注目の野球選手だ。
こんな風に横を歩けるような、同じ歩幅で歩いて行けるような人を選ぶべきだったんだろうな、なんて横を歩くくらもっちーを見ながら思った。
だけどそれでも私はやっぱり一也が好きで、どうしようもない馬鹿なんだ。
くらもっちーのアパートで話をしている間にも一也から何度か着信が入って、LINEも来てた。
どこにいる?
とかそんな内容。
こんな遅くまで起きていたら明日に響くよって言ってあげたかったけど、返事をしたら縋ってしまいそうで出来なかった。
夜中の2時を回るころくらもっちーの携帯に着信が来て固まった。
一也からだった。
くらもっちーは「出るぞ?」と私に確認を取ってから通話ボタンを押した。
話の内容は聞こえないけれど、
くらもっちーが「うちにいるよ」って言ってたから私の話をしているってことはわかる。
「お前怒れる立場かよ」って怒りを滲ませてため息混じりにくらもっちーが話してる。
一也が怒ってる?
くらもっちーの家にいるから?
アナウンサーの恋人?がいる癖に?
よくわからないけど、納得出来なくて私も怒りがこみ上げてくる。
くらもっちーは一也の話をひとしきり聞いて、私に「とりあえず話すか?」と聞いてきた。
「今はいい。話したくない。」
「だとよ。とりあえず今日はうちで預かるからな」そう言って電話を切った。
一也に何を言われたのかわからないけど、くらもっちーは「話、聞いてやってもいいと思うぞ?」なんて言い出すから、私は少しだけ今日起きたこと全部夢だったなら良かったのに、そう思った。
その日はくらもっちーの家のベッドを借りて(断ったけど、俺が床で寝る!とひいてくれなかった)気づいたら眠っていた。
次の日、朝のワイドショーは相変わらず御幸一也の熱愛をネタにしていたから、やっぱり夢じゃないって現実を突きつけられた。
それでもどうにかくらもっちーにお礼を言って、自分のアパートに帰れば家の前は当たり前のように静かで、むしろ私と一也のことの方が夢だったんじゃないかとすら思えた。
ここに戻れば一也が来てくれるかも、謝ってやり直そうって言ってくれるかもなんて淡い期待は綺麗な空に掻き消えて、
今日の試合にも一也は先発出場するとニュースが伝えていた。
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