May and December Romance | ナノ


May and December Romance
May and December 約2年後 


 ユキちゃんと私が、その、精神的にではなく、物理的に、もっとわかりやすくいうと肉体的に、結ばれたのは、ベタだけれど私の二十歳の誕生日だった。
 お付き合いしていく中で、もちろんキスはしていたし、まあなんというか身体を触られることもあったのだが、ユキちゃんの二言目の口癖は「未成年はマズい」だったわけで。

 私は、ユキちゃんが受け入れてくれたあの日から、ずっと聞きたくて、でも聞いたらまた振り出しに戻ってしまう気がして聞けなかったことを、そのときに初めて聞いた。

「ユキちゃん、ユキちゃんはなんであのときになって私を受け入れてくれたの?」

 ユキちゃんは、数回あった行為のあとに、うつらうつらと眠っていたけれど、私はとてもじゃないが眠れなかった。そして、明け方になってきてユキちゃんが、ううん、と身動ぎしてから薄目を開けてこちらを見、「アユ起きてたの?」と掠れた声で言うので、おはよ、と頬にキスをしてから尋ねてみたのだ。寝ぼけているほうが本音を聞けると思ったし。

「え……?」 ユキちゃんはまだ覚醒していない。
「多少オトナになったから? まああのときはまだ未成年だったけど……」
「うーん……」
「まあ以前がダメだったのはなんとなくわかるけど。小学生や中学生相手にどうこう思ってたら完全ロリコンだもんね」
「…………」
「でも、なんでだか、いまだによくわからない」

 ユキちゃんは、うーんと、と言いながら、私を抱き寄せた。

「2年以上顔合わせてなかったのがデカいかな。そこで、『生まれたときからずっと知ってるアユ』ってのが一旦途切れたから。だから店で久しぶりに会ったときは、そのときに出会った女性、的な感覚だったんだよ」

 話しながら、ユキちゃんは私の髪の一房をくるくるといじる。

「それまでは、やっぱり兄貴とか父親的な感覚だったし。でもそれが一旦リセットされてさ、もう見かけも中身も大人っぽかったし、あのとき制服着てなかったからな。もともとお前は話しやすいし楽しいし。そうなるとさあ、まあ、変わるよな、俺も」

 結局、一度ユキちゃんと(私の中で一方的に)さよならしたことが、ユキちゃんとの関係を変えることになったらしい。あのときはこんなことになるとは全く思いもしなかったけれど。人生どう転がるかわからないものだ。

 で、忘れてはならない、ついでに聞きたかったことをもうひとつ。

「あのとき、ラブホから一緒に出てきた女の人って当時付き合ってた人だったの? 今は……別れてるんだよね? なんで別れたの?」

 ユキちゃんのくるくるお手てがピタッと止まった。じっと顔を見ると、つつーっと目があさっての方へ泳いだ。

「え、別れてないの?」

 びっくり的な感情で(悲しみとか怒りではなく)、ポロっと言うと、あさっての方へ行っていたユキちゃんの顔がぶんっと音を立てるように戻ってきた。

「あほか! 今はお前だけに決まってんだろうが!」
「だって今目が泳いだよ……」

 ユキちゃんはちょっと眉毛を八の字に下げてから、私の頭を抱えて自分の鎖骨あたりにくっつけた。これじゃ顔が見えない。

「あいつは、まあ付き合ってたわけでもなくて、なんというか、遊び相手というか……。お互い相手がいなくって、軽く飲んでてソノ気になると、まあちょっとというか。あのときもそんな感じだったんだけど、お前に見られてなんかすっごい罪悪感覚えじゃってさ。そういえばあれからまったく音信不通だな……」

 それってセフレってことなんだろうか? ユキちゃんにセフレ……。

「あのさあ、言い訳がましく聞こえるとは思うんだけど、俺も30過ぎてるし、さすがに彼女の1人や2人はいたことあるし、まあそれなりにね、経験つんでるわけですよ」

 頭を抱えた腕が強くなる。

「でもさ、お前のことはほんとに真面目に考えてるし、すごく大事に思ってるから……」

 わかってる。わかってるよ。今日も(昨日か)すっごく優しくしてくれたから。
 いつもお父さんやお母さんに気を遣って、健全なお付き合いをする誠実な恋人でいてくれているから。

「お前の最初で最後の恋人でいられるように努力するよ」

 優しく優しく髪を撫でながら、心をこめて言ってくれているのがわかる。
 すっごく嬉しい。

 嬉しいけど、でも私の前に何人も恋人がいたことのあるユキちゃんに対して、ちょっと反撃したい気持ちが湧いた。

「……ユキちゃん、あのさ、ユキちゃんは自分が私の最初の恋人だと思ってるの?」

 案の定、ユキちゃんは、私を抱えていた腕を放し、ガバッと起き上がった。

「え、なにお前、違うの!? あ、そっか2年、間があるし……。あの間にカレシいたことあんのか? でもお前昨夜初めてだったよな……。いやでもキスとかお触り程度は……。男子高校生なんて煩悩の塊だもんな、それしか考えてないもんな……マジかよ……えー……いやまあ仕方ないけど……でも……」

 若干ショックを受けたらしく、独り言のようにぶつぶつ言い出したユキちゃんをみて私は少し溜飲が下がった。
 カレだって、キスだって、なんだって、全部ユキちゃんが初めてだよ。告白されたことも何回かあったけど、ユキちゃんを忘れるためにも付き合ってみようかなと思ったこともあったけど、無理だったんだ。
 でも、しばらくはナイショ。今までの私の気持ちを少しは味わえばいい。

 私も起き上がって、ユキちゃんの首に手をまわして、顔をみつめてにっこり言った。

「ユキちゃん、今はユキちゃんだけだよ?」

 ユキちゃんは、ますます眉を情けなく曇らせた。




(after word)
May and December Romance や May and December Love で歳の差恋愛という意味らしいです。
本編ではあえてRomanceやLoveはつけませんでした。最初の時点ではおませな小学生の女の子、というお話なだけで、続いていって恋愛にいくとは思わなかったので。
でもまあ、結果こんな感じになっちゃったので、今回はRomanceを付けてみた次第です。



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