22 ピアノのおけいこ 大学の小さなピアノ室の一部屋から出てきた男子学生を私は捕まえた。 「あー、悪い、勝手に弾い」「ピアノ教えてくださいっ!」 小学校教諭免許を取る為には色んな単位が必要だ。ピアノもその一つでバイエル80番程度まで弾けなければならない。 ピアノに触ったことさえなかった私は、弾ける友人に教わろうとしても時間が合わず、習いに行くには金銭的に厳しくほとほと困っていたのだ。 そこに現れた救世主が貴方です! と私は彼に力説した。 「どれがドですか」 「そこからか……」 毎週水曜の16時過ぎに私と彼は小さなピアノ室で格闘する。 そのうちその様子は他学生にピアノ漫才と囁かれることとなり、私が晴れて単位を取ったときにはお祝いという口実の下に、彼の属する数学科と私の教育科との合コンが盛大に開催された。 無関係なのに何故か参加していた英文科のキラキラおねーさんから彼をなんとか死守し、まだまだピアノを教えてほしい、できればずっと、とお願いしたら彼は、しょうがねえなあショパン目指すか、とその長い指で私の額を叩いた。 (after word) 長編にある『ピアノのおけいこ』の原型です これからあれに膨らんだ…… [prev][contents][next] ×
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