市民プールと彼女と彼 | ナノ


11 市民プールと彼女と彼
 


 笑いながらばしゃんとプールに突き落とされた。偶然会ったクラスメイトの彼に。
 ぶくぶく沈みながらたった今見た光景が頭の中をぐるぐる廻る。夏休み。なんで彼はあの子とプールに来ていたんだろう。なんで私は今日このプールに来てしまったんだろう。暑さのせいか。近所にこの市民プールがあったからか。そしてここが安いからか。少ししかお小遣いをくれないママのせいか。そもそも彼があの子と来るのが悪いんだ。ああもうどうでもいい。まあ私だって彼に気持ちを打ち明ける勇気もなかったんだからヤキモチ焼くなんておかしいわけで。
 ぶくぶくぶく。水面に顔を出したら「何すんのよ」って彼の顔面に水をぶっかけよう。それで帰ろう。……と思っていたら彼も水中に潜っていた。みるみる顔が近づいて……。
 2人でぷはっと水面に顔を出したら、監視員に「危険なことをしないように」と注意され、プールサイドには彼のクラブの面々が揃って私たちを指さし笑っていた。マネージャーのあの子も。
 監視員に謝りながらも、水中で私たちの手は繋がれていた。



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