うそつき | ナノ


06 うそつき
 


 その人は、冬の夜のジョギングで知り合った人だった。
 自転車で10分のところにある公園のトラック。都下の割と有名な公園の西側にあるそこは、夜でも結構ランナーがいる。夜間照明があっても日中に比べれば暗いしいちいち顔なんか見ていないのだが、あるとき彼と私が接触し、転んだことで顔見知りになったのだ。
「大学生?」
 スッピンの私の顔を見てそう聞かれ、どうせここでしか会わない、そんないたずら心で恥ずかしげもなく5つもサバを読んで「そう、ハタチ」としれっと答えた。
「俺も。ハタチ」
 そう言った彼とはそれから暫く夜のトラックでの交流が続いた。嘘をついている手前、あまりプライベートな話題や接触は避けていたが、それは相手も同じように感じた。
 しかし翌春、新しい赴任先である高校にて私と彼は思わぬ再会をすることになる。頭が痛い、と保健室に顔を出した生徒は、頭痛薬を差し出した私に「嘘つき」と笑った。私も笑った。「キミもね」



(after word)
「俺は5歳もごまかさなかった」
「3歳も5歳も似たようなもんよ」




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