天秤 | ナノ


03 天秤
 


 『式が終わったら待ってて』卒業式の朝、そう書かれたメモが靴箱に入っていた。その字で誰からかわかったけれど多分私は待たない。だって彼は友達の好きな人。みんなで仲が良かったけれど、友達が先に彼を好きになって、私は自分の中の育ち始めた気持ちを抑え込んだ。恋は順番ではないっていうけど、それでも友情より恋を選ぶ勇気なんかあるわけない。
 式が終わり最後のHRも終わり、校内でみんなで写真を撮ったり別れを惜しんだりした。その間に人気者の彼の学ランのボタンは全部無くなっていて、友達も「もらえなかった」と泣いていた。ボタン、誰にあげたんだろう……と思いながらも、私は友達とわいわい帰宅して、そして部屋で1人泣いた。
 夜帰宅した姉が、今そこで男の子に渡された、と私に渡してきたのは膨らんだ茶封筒。そこからころころと転がり出てきたのは学ランのボタン5個だった。「……」私はそれを両手で握り、玄関を飛び出した。
 これが私が恋と友情を秤にかけて出した結末。



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