初恋オクターヴ | ナノ


02 初恋オクターヴ
 


 定期考査の近い、誰もいない放課後の廊下で。帰ろうとする僕の耳にどこからか小さな単音のメロディが聴こえてきた。着メロ? ちょっと違うような。それに曲がどんどん変わっていく。ちょうちょ、かえるのうた、春の小川? それからこれは……そうだ、ロンドン橋!
 気になって音源を探していたが、そのうち音が聴こえなくなってしまった。するとちょっと前の教室から出てきた女の子がすれ違いぎわにかつんとバッグから何か落とした。「待って。何か落ちた」と僕が拾うとそれは小さな小さなハーモニカ。「この音だったんだ……」呟くと、彼女はちょっと驚いて、聴こえてた? と恥ずかしそうに頷き、これね、1オクターブしか音がないの。だから吹ける曲は1オクターブの中でだけ。でも結構あるんだよ、とやわらかく笑った。
 思わず口をつけてプーと音を鳴らしてみてから彼女にハーモニカを返す。じゃ、じゃあさよなら、と去った彼女の顔が赤かったので、なんでだろう、と思ってからはっと気づいた。
 しまった、あれじゃ間接キスじゃん……



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