track15: 23の春 今までの彼女とはちょっと違っていた。 女の子に自分からはなかなかいかない。ていうかいったことがない。ちょっと感じ悪いかもしれないが、事実そうだ。 自分から好きになったことはないのかといえばないこともなかったと思う。ただ、音楽を始めてからはそっちに比重が全然いかなかっただけのことで、こう、何かしらの出会いがあって、相手側から好意を伝えられたら「いいかな」と思えば付き合ってみる。それでちゃんと好きだったと思う。相手が離れていくこともあれば、自分から「ごめんちょっともう難しい」と終止符を打ったこともあった。 で、今回は何が違ったかというと、相手がこちらのことを知らなかったということだ。 大抵「ファンです」から始まっていた。ところがこの女優さんは「恥ずかしながら存じ上げなくて、主題歌になって初めて聴かせていただいたんです」とのたもうた。正直で大変結構である。まだそこまで大物とも人気者とも思っていない。ちょっとだけヒットが出てきたよちよち歩きの赤ん坊も同然だといまだ思ってるし。(謙虚はだいじ) そんな彼女との初対面だったが、割と仲の良い若手俳優がその映画に出ているのもあり野次馬もあいまってちょいちょい撮影を覗きにいったり差し入れをしたりしていて、そんなときに話に入ってくるようになり、そして最後の打ち上げのときに告白された。 「まだあまり英斗くんのことは知らないけれど、曲をたくさん聞いてすごく曲が好きになったし、こうして話しているとどんどん好きになっていく気がするの」 実際彼女は感じよくて俺も好感を持っていたし、しかも「でも私、このあとちょっと語学留学するからあんまり会えないけど」とか言い出して「は?」とかなって。 「普通そういうの終わって帰ってきて会えるような状況になってから関係すすめるものじゃない?」と聞いたら「その間に彼女できちゃったらくやしいから唾つけときたくて」と。 なんだかそれがおかしくて、気づいたら「いいよ」と言っていた。 脳裏に身近な少女のことがよぎったけれど、それはスルーして。 そんなわけで、その語学留学の前にちょいちょい会っていたら写真週刊誌にリークされたというわけだ。 「ごめんね、って言うべきなのかな?」 「なら俺もごめんねって言うべき?」 「それはないでしょ」 「じゃ、お互いそうだ」 気楽な彼女。あとひと月もすればイギリス行きだ。そのあとどうなるかは正直俺も彼女もわからない。 続くのか終わるのか。 つまり似た者同士だったというわけだ。 そんな中、チビの受験問題が再浮上して、本人が暫く休みたいと言い出した。 少し離れるにはちょうどいい機会かもしれない。 チビはマイムジには絶対必要だ。絶対に。 何もしてやれないが、しばらく離れて自分のことを考えるといい。 もっと違った周りを見るといい。同年代のヤツらを見てみるがいい。 そして、戻ってきてくれればいい。それで俺のことなんかバカにしてけちょんけちょんにしてくれよ。 ……などと多少なりとも感傷的に思っていたのだが。 案外あっさりと進学問題が済んだと思ったら 「ちょっとミュウちゃんを預かろうと思うんだよね」 eimiさんが乗り込んできた。 2023.11.12 続きます(今度こそクライマックスに向けて!) [prev][contents][next] ×
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