13.on the radio 2 | ナノ


track13: on the radio 2
 


「マイムジ英斗と」
「軸の」
「オールナイト、ジャ、パーン!」

「えー、みなさんコンバンワ、マイネムジク英斗です」
「どもこんばんはー! じくじくじくじくじっくんでーす!」
「軸、敢えて言おう。毎度言おう。テンプレだから言う。その自己紹介どうにかなんない」
「オレはこれを変える気はナイ!!」
「あっハイ、無いそうです。あ、ついでに今日はドラムの刻生も来てます」
「……ついでです」
「ほーんとトキオ喋んないから居るか居ないかわかんないよね!」
「ほんじゃまたディレクターに写真撮ってもらってSNSにあげまっしょー」
「おーけーおーけー。ちなみに今日トキオはなんか茶色いもこもこしたの着てまーす」
「俺なんかこう刻生見てて既視感が……あっ、わかった! クマだ! クマ!」
「クマさん! トキオクマ!」
「お前ら……」
「ハイ!それでは今日の一曲目、僕らマイネムジクで『逃(にが)した魚』……



「えー、ラジオネーム“もくもく”さんから」
「もくもくさん……なんだろヘビースモーカーだからとかかな?」
「いや、雲を研究している人かもしれない、乱層雲、積乱雲、うろこ雲、ひつじ雲」
「イヤ、木曜日からとってるのかもしれない、で金曜に」
「進めろ」
「ハイハイ怖いよトッキー。えー“もくもく”さんより。『ミュウちゃんのアルバム聴きました!』。お、聴いてくれたんだ? ありがとー。『どれもかわいかったりかっこよかったりしてサイコーでした! 曲を聴いていて歌詞も読んで、すっごくむずむずキュンキュンしたりしました! 英斗くんはどうしてあんなに女の子の気持ちがわかるんですか?』」
「むずキュンね! どーしてですか? 英斗きゅん」
「うーん、…………女性経験?」
「うわっ! 出ました問題発言! 問題発言出ましたよ! ワイドショーワイドショー! センテンススプリング! あっトキオがこけてます!(笑)」
「やべえ、色々流出する! ……というのは冗談として」
「ほんとに冗談?」
「ジョーダンですよ? で、なんだっけどうして女の子の気持ちがわかるの? だっけ?」
「そうそう」
「……そうだなあ……。とにかく、よく見てます」
「何を」
「ナニを」
「ナニってなに!(笑)」
「ナニってチビを」
「おっと」
「チビをね、よく見るんですよ。もしかしたら、実の兄よりもよく見てるかもしれない。あの子のね、感情の動きと表情をよく見ます。いろーんなあの子がいるわけですよ。年相応に可愛かったり、大人に囲まれてるだけあって大人っぽかったり、子供みたいに癇癪起こしたりね。そういったところを見ているとイメージがぶわーーーーって湧いてくる。そのままがーーーーーって書く。この子はどんな大人の女性になるんだろう、ってときどき客観的に思ったりもしながらね。すっごい創造意欲、創作意欲をかきたてる存在ですよ」
「……うわ……なんか、すごい。実の兄として、ぞわっときた」
「ナニソレ。それ良い意味? 悪い意味?」
「いや良い意味良い意味! 俺にとってはカワユイカワユイカワユーーーーーイ妹だけどさ、誰かに、ってこの場合英斗だけどさ、誰かになんかかけがえない存在って言ってもらったら嬉しい」
「いやそこまでは言ってないぞ兄。まあチビはボクらマイムジ男衆の妹だからな。めっちゃ大事ですよ。みんなも変な方向にいかないようにね、ミュウちゃんはまだティーンですからね! へんな目で見ないでね! 見るなよ! でも大事にしてね! 応援もしてね!」
「すごいなんか身勝手(笑)」
「身勝手上等。──嘘です嘘です謙虚な心を忘れません! と、いうわけで曲いきましょう! えー、なんど呼んでも舌噛みそうです、Supercalifragilistic Floccinaucinihilipilificationで『赤い赤い赤い糸』……


***


「お兄ちゃん! 英斗! なんなの昨夜の放送は!!」

 いつもの如く、寝ていたのは軸の部屋だ。刻生はもちろん自宅へ帰った。てかあいつ必要? ほとんど喋んないんだからなもー! でも進行が滞ると突っ込みいれるからディレクターみたいなもんで……。

「ん……? なんだよ……。ぐえっ」
 いつもの定位置でドアに近い側で寝ていた俺の背中にチビの右足が踏み込まれる。いつものことだけど、結構痛いのよミュウちゃん! ちょっとじっくん! 妹をなだめてよ! 寝てるし!

「何だよ……お前聴いてたの? 寝てろよ中学生は。だから背が伸びないんだふぉっ!」
 こらっ両足で乗るな! 全体重じゃねえか!
「何だよ、別に昨夜は変なこと話してないだろ……たぶん……」
 多分というあたり俺もなかなか慎ましやかである。
 無理に体をひねってチビを下ろす。見上げると、セーラー服姿のチビはほんのり顔を赤くしていた。

「あんたね! あんた……! あんたって人は……!」
 なんだなんだ。なんなんだ。
「日本語喋れよ……。あと俺まだ眠いから。イッテラッシャイ義務教育」
 布団に潜って手だけしっしと振る。
「あんた見てるって……見てるって……」
 ん……? ああ昨夜のあれか。
「うんうん見てるよー今は見てないよーオヤスミ」
 暫く沈黙が続く。出てったのかな。
 と思いきや、
「いでっっっ!!」
 踵で背中をぐりぐり攻撃、出た! だからこれ地味に痛いんだって!

「見ないで! とにかく! もう私を見るのは禁止!!」

 チビはそう叫ぶと足音荒く部屋を出て階段を降りて行った。ばたん! と玄関のドアがしまる音がする。とりあえず、部屋のドアが開いたままだと寒いですミュウちゃん……。

「──なんだよ騒がしいなあ……。なんの騒ぎ?」
 軸がもぞもぞ動く。遅えよ。顔は見えない。
「お前の妹だよ。見るなって叫んでった」
「ふぅん? …………まあねえ、年頃だからねえ……いろいろバレたらイヤだよねえ……」
 息で笑う気配がした。
 俺もふっと笑う。

 いいんだよ、それで。今は。おチビさんよ。
 大丈夫、こっちはそれなりに大人だ。いろいろ心得てる。
 お前のことは大事だよ。それは変わらない。
 だからまだ今はこのままで。少女らしく、そのままでいてくれ……。






 でもまあ、これでぶーたれたチビは、このあとしばらく俺と顔を合わせるときは帽子をかぶり伊達眼鏡をかけマスクをして過ごし、全っ然歌おうとはしなかったんだけどさ。


















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