◆bonus track06: 弥(あまね)く映せ ※track12読了後推奨です 「映弥(えいみ)、ごめん別れよう」 そう言って別れたのは誰だったっけ? 浮気したんだっけ? 相手に子供ができたんだっけ? 本命か二番目か三番目かが乗り込んできたんだっけ? それとも、すごく年上で結局小娘は駄目だったんだっけ、または御曹司の相手には相応しくないって言われたんだっけ、そうじゃなくって俺なんかじゃって引かれたんだっけ、いやいや何だか君のことを掴みきれないとかよくわからんあやふやなこと言われたんだったっけ…… まあ、そういうのを全部丸呑みして自分の血肉にして、私は音楽をつくっている。 * * * 「ミュウミュウ〜!! アルバム聴いたよ! すっごくよかった!」 音楽番組の生放送のあと、一緒に出演していたマイネムジクのキーボード&マスコットガール、ミュウちゃんに声をかける。 「eimiさんもう聴いてくれたの? 恥をしのんで差し上げようと思って今日持ってきてたのに」 「えーそんな発売日に買うにきまってるじゃん! 待ってられないもんね。てか恥を忍んでってなによ〜」 「だって私、eimiさんみたいに歌うまくないし」 「なに言ってんの、十分うまいよ。あとすごくキラキラしてのびのびしててティーンの女の子みがすごい」 「……英斗と同じこと言う」 英斗くんか。マイムジのボーカル。 以前にうちのメンバーと一緒に飲んで話をして、実は結構気に入っていた。同じような立場、曲作りのスタンス、それに優しいけど飄々としててそれこそ掴み切れない感じの性格とか。 2回ぐらい無理に誘って二人で飲みに行ったこともある。でも落とせなかった。直接的に何かを言ったわけじゃないけれど、わかるでしょうオトナなんだからそういうのって。 マッジメなんだーと思ったけど、そのあとミュウちゃんと親しくなってから手を出さなくてよかった、と心底思った。 私が今欲しいのは、男じゃなくて癒しだったのだ……! かわいいかわいいちょっと大人びたティーンの女の子。 本人うまく隠してるつもりだろうし、それはなかなかに頑張っているけれど、このeimiさんには君の気持ちは駄々洩れなんだよミュウミュウ。これからも私にその甘酸っぱい宝物をちょっとわけておくれ。黙ってみてるから。(こういうことに口は出さないほうがいい。本人が何か言ってこない限りは) だから 「英斗くんさすがだよね。歌詞とかちょっとティーンの女子わかりすぎてて若干ひくぐらいだよね」 とほめつつも落としておく。ミュウミュウ、大丈夫、私はライバルじゃないよ。 「あははっ。ほんとひくよね」 「あれはミュウミュウじゃないと歌えないよ。すっごくよかった」 これは本当の本音。私には作れないし歌えない。 ま、作りたいとも歌いたいとも思わないのだけれどね。だって私だよ? でもそれを作っている人と、歌っている人がいて、その曲を私が好きだというのは別の話で。 つまり、何が言いたいかというと。 「ミュウミュウ、今度いつヒマある? 女子会しよ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」 私はこのキラキラが大好きで癒されるってこと! 「女子会? わあ楽しそう!」 「あ、eimiさんその女子会に保護者枠としてボクが参加するのはだめでしょうか!」 「駄目に決まってんでしょ」 「お兄ちゃんはすっこんでてよ!」 「ミュウちゃん冷たい!」 [contents] ×
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