伝言ゲーム | ナノ


伝言ゲーム
 


 3月に入って、卒業まであと少しになった。

 私の片思いもほぼ3年。進学するのはもちろん彼と違う大学。もうお別れだ。けれど、どうしても行動にうつす勇気は出なかった。

 でもせめて。何か。ほんのちょっとだけ行動して思い出を作りたい。


 そこで。

 同じクラスである彼の机の上に放課後こっそり書いた。

『すきです』


 でも校門を出てちょっと歩いて、やっぱり後悔して消そうと教室へ戻る。すると『すきです』の下に

『ありがとう。で、君は誰?』

 え?いつの間に?慌てて教室内を見まわし、廊下も見たけれど誰もいなかった。

 結局消すのはやめて、
『名乗るほどの者ではありません』
と更に下に書いて教室を出た。

 翌日さりげなく彼の机を見ると『イニシャルだけでも』と書いてあった。
 周りを伺いながら『だめです』と書く。

『すきならお願いをきいてくれても』
『それはそれ、これはこれ』
『このままでいいの?』
『いいのです』

 こっそり書くのがなかなか難しいので毎日ではなかったけれど、彼とのこの伝言ゲームは楽しかった。



 そして卒業の日。

 朝まだ誰もいない教室で、最後の伝言を書こうとして。

『自分の机みて』
「え?」

 そして自分の机を見て──



『オレもすき』



 背後で足音が聞こえた。









2016.3.12


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