あーちゃんはパパがきらい | ナノ


あーちゃんはパパがきらい
娘にきらいとか言われてる全国のパパに捧ぐ。



「パパいや! きらい! あっちいって! あーちゃんはママがいいの!」

あーちゃんがパパにいっています。
このごろのあーちゃんはパパがきらい。なんでかな。

「だってパパは、あーちゃんがいやだっていってもくっついたりだっこしたりするし、たかいたかいは たかすぎてこわいし、てをぎゅーってにぎりすぎていたいし、ふざけるし、おならするし、あとは、あとは……とにかくきらい!」

そんなあーちゃんに ママはいいます。

「あーちゃん そんなこといわないのよ。パパはあーちゃんのこと だいすきなんだから、きらいなんていったらかなしいよ」

でも、でも、いやなんだもん!

あーちゃんは、ぷいっ。

「そんなこといって、あるひ とつぜんパパがいなくなったらどうするの? いやでしょう?」
「いなくなってもいいもん!」


* * *


あるあさ、おきると、あーちゃんはベッドにひとりでした。

あーちゃんはいつもおおきなベッドで パパとママのあいだに ねています。(もちろんどちらかというと ママのほうに よってねていますが……)

あさになると いっつもパパがあーちゃんをだっこして ねています。ママはもっとはやくにおきていて、あさごはんをつくっているので あーちゃんがめをさますときには もうベッドにはいません。

くっついているパパのかおを て でグイグイおして、あーちゃんはパパのうでからぬけだすのです。それがいつものあさでした。

けれど、けさはひとりです。パパはいません。さきにおきたのでしょうか。

ベッドからでて、かいだんをおりて、したのおへやをのぞいてもパパはいません。
あーちゃんがおねぼうしたのでしょうか。
パパはもうかいしゃにいってしまったのかな?

あーちゃんは だいどころにいるママにききました。

「おはようママ。ねえ、パパは?」
「おはようあーちゃん。パパって? なにいってるの? うちにはパパはいないでしょう」
「え? もうかいしゃへいったの?」
「なにいってるの。だからうちにはパパなんていないでしょう? へんなあーちゃんね」

ママは なにをいってるのでしょう。でもよくよくまわりをみると、なにかがいままでとちがいます。
なんでしょう……

あっ!

あーちゃんはベッドのところにもどりました。まくらがふたつしかありません。あーちゃんとママのまくらです。パパのまくらがありません。

パパのふくがかかっているクローゼットをあけました。そこはからっぽでした。

それからあーちゃんは せんめんじょへいきました。パパのはぶらしも ひげそりも ありませんでした。

だいどころの とだなもあけました。パパのおはしも おちゃわんもありませんでした。

そして、そして……。まどべにかざってあるしゃしんをみました。きのうまでは あーちゃんとパパとママと さんにんならんでうつっていたはずの そのしゃしんは あーちゃんとママのふたりだけでした。


パパがきえてしまった!!!!


* * *


あーちゃんは いえをとびだしました。
パパをさがしにいくつもりです。
でもいったいどこへ さがしにいけばいいのか わかりません。

いつもいく きんじょのこうえん。いません。
そのまえにあるコンビニエンスストア。いません。
もうちょっとさきの じどうかん。いません。
そのもうちょっとさきの おおきなおおきなこうえん。
いません……。

きがつくと あーちゃんはだいぶとおくまで きていました。いままで こんなとおくに ひとりできたことはありません。ちょっとこわくなって かえろうかなとおもいました。

けれど、もうここまできてしまったのです。こうなったらぜったいパパをさがしだす! あーちゃんは おおきなこうえんのなかにはいっていきました。



「パパー、どこー?」

そこでだれかがこえをかけてきました。

「きみ、パパがいないの?」
ふりむくと、そこにいたのは ちゃいろいいぬです。

「いるよ。いるけどいなくなっちゃったからさがしにきたの。いぬさんみなかった?」
あーちゃんは いぬさんにききました。

「どんなパパ? せはたかい? ひくい?」
いぬさんにきかれて、あーちゃんはこたえました。
「せはとってもたかくて き みたいなの。たかいところにあるでんきもすぐとりかえられちゃうし、きにひっかかったボールもすぐとれちゃうの。かたぐるましてくれるとおつきさまにてがとどきそうになるぐらい」

「へえ、すごいパパなんだね。でもぼくはここではみかけなかったな」





いぬさんとわかれて あーちゃんはこうえんをすすみます。

「パパー、どこー?」

するとまただれかがこえをかけてきました。

「きみ、パパがいないの?」
ふりむくと、こんどはそこにいたのは くりいろのはとです。

「いるよ。いるけどいなくなっちゃったからさがしにきたの。はとさんしらない?」
あーちゃんは はとさんにききました。

「どんなパパ? あしははやい? おそい?」
はとさんにきかれて、あーちゃんはこたえました。
「すっごいはやいよ。ようちえんのおとうさんのかけっこでいちばんだったもん」

あ、でも、あーちゃんとかけっこするとパパはまけるのです。なんでかな。もしかしてわざとまけたのかな。

「へえ、すごいパパだね。でもぼくはここでは みかけなかったな」





はとさんとわかれて あーちゃんはこうえんをすすみます。

「パパー、どこー?」

するとまたまただれかがこえをかけてきました。

「あなた、パパがいないの?」
ふりむくと、こんどはそこにいたのは くろとしろのねこです。

「いるよ。いるけどいなくなっちゃったからさがしにきたの。ねこさんみなかった?」
あーちゃんは ねこさんにききました。

「どんなパパ? やさしい? こわい?」
ねこさんにきかれて、あーちゃんはこたえました。
「とってもやさしいよ。つかれたっていうとだっこしてくれるし、あーちゃんがきらいなたべものは こっそりかわりにたべてくれるし、ママにおこられたときは かばってくれるの」

そこであーちゃんは さっきはとさんとはなしたときのぎもんにきづきました。

「あとあーちゃんとかけっこすると ほんとははやいのにわざとまけてくれるの」
「へえ、やさしいパパなのね。でもわたしはここではみかけなかったわ」





ねこさんとわかれて あーちゃんはこうえんをすすみます。

「パパー、どこー?」

すると、またまたまた、だれかがこえをかけてきました。
「きみ、パパがいないの?」

ふりむくと、ちかくのさくのむこうがわに まっしろなやぎがいました。
「いるよ。いるけどいなくなっちゃったからさがしにきたの。やぎさんみなかった?」
あーちゃんは やぎさんにききました。

「どんなパパ? つよい? よわい?」
やぎさんにきかれて、あーちゃんはこたえました。
「うーん、どうかな。でもないたところをみたことないし、おもちつきたいかいでは ぺったんぺったん かんたんにおもちをつけるんだよ。あーちゃんはおもちをつくぼうは おもくって ひとりでもてないのに」

そういえば そんなにちからがあるのに、あーちゃんにぽかぽかたたかれてもパパはたたきかえしてこないな、とあーちゃんはおもいました。

「へえ、つよいパパなんだね。でもわしはここではみかけなかったよ」





やぎさんとわかれて あーちゃんはこうえんをすすみます。

「パパー、どこー?」

すると、またまたまた、だれかがこえをかけてきました。

「きみ、パパがいないの?」
ふりむくと、そこにいたのは はいいろのねずみです。

「いるよ。いるけどいなくなっちゃったからさがしにきたの。ねずみさんみなかった?」
あーちゃんはねずみさんにききました。

「どんなパパ? おもしろい? つまらない?」
ねずみさんにきかれて、あーちゃんはすぐにこたえました。
「すっごいおもしろいよ! じゆうじざいに おならをするんだよ! ママはすっごいおこるけど、あーちゃんはすっごいわらっちゃうの! あと おわらいげいにんのまねも すっごいうまいんだよ!」
「おなら……くさくないの?」
「くさいけど……でもおもしろいの……」

おならでよろこんだらまずかったでしょうか。でもねずみさんはわらってくれました。

「おもしろそうなパパだね。でもぼくはここではみかけなかったな」





ねずみさんとわかれて あーちゃんはこうえんをすすみます。

「パパー、どこー?」

よんでもよんでもパパはいません。ほんとうにいなくなってしまったのでしょうか。


すると きのうえでカーカーと カラスがとんできて えだにとまりました。
そして あーちゃんにむかっていいました。

「ぼくはしってるよ。きみはいっつもパパがきらいっていってたじゃないか。くっついたりだっこしたり たかいたかいしたり おならしたりするパパがきらいだって。いなくたっていいんだろう? このままでいいじゃないか」

たしかにあーちゃんはいつもそういっていました。きらいって。いなくてもいいって。
でも。
ほんとうはちがうのです。
なぜだかわからないけど、てれくさくて きらい といってしまうのです。

きらいっていってもおこらないから。でもちょっとかなしそうなかおをしてた。

でも、でも、ほんとうは、パパのことはだいすきなのです。
せがたかくて、やさしくて、あしがはやくて、つよくって、おもしろいパパが だいすきなのです。
あーちゃんのめから なみだがぽろぽろこぼれました。

「えーん、えーん。パパ、ごめんなさい。もうきらいなんていわないから、いなくならないで。かえってきて」

あーちゃんは、カラスのとまった き のしたで、いつまでも ないていました。


* * *



「パパ! あーちゃん! いつまでねているの。いくらおやすみだからってねすぎよ」

あたたかいなにかにくるまれて、めがさめると、あーちゃんはベッドにいました。
よこをみると パパがあーちゃんにくっついて だっこしながらねています。

「パパがいる……」

あーちゃんはなみだがでてきました。すると めを あけたパパが

「あーちゃんどうしたの? こわいゆめを みたの?」
と もっとぎゅうっとしてきました。

よかった、ゆめだったんだ、パパはいなくなってなかったんだ。
これからは もうパパをきらいっていうのはやめよう。こんどはすきっていってみよう。
あーちゃんはつよく そうおもいました。


「あーちゃん、かわいそうに。パパがいるからね」

パパはぎゅうぎゅうあーちゃんをだきしめます。ぎゅうぎゅうぎゅう。ぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう。
ぎゅうぎゅうぎゅうぎゅうぎゅう……。


「パパいたい! はなして! パパなんかきらい!!」





おしまい。










(after word)
「小説家になろう」内 企画『冬の童話祭2016』参加作品

2016.1.14



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