小鳥が遊ぶ | ナノ


小鳥が遊ぶ
 

 
「まゆさん悪いちょっとレジ入って」

 私を下の名前で呼ぶ彼は、ひとつ年上のコンビニのバイトの先輩。
 最初からそうだった。なんで?
 今まで父親や親戚以外の男の人に名前で呼ばれたことなんか、ない。

「私や他の子のことは名字で呼ぶのになんでまゆだけ名前で呼ぶんだろうね」
 そんなことをバイト仲間ににやにや言われるとますます気になってしまう。

 なんで? が もしかして? に変わるのに時間はかからなかった。


 ある日、とうとう勇気を出して彼に疑問をぶつけてみた。

 すると彼はちょっと照れながら……

「あー、いや実は最初まゆさん入ってきたとき俺ちゃんと名前聞いてなくて。でも名札あるからいいやって思ってたら小鳥遊って名字読めなくてさ、何て名前、とも聞き辛くて、そしたら下の名前はひらがなだったから、そっちで呼べばいっかって」
「……」
「そのあと調べてタカナシって読むってわかったんだけど、今さら名字で呼ぶのもアレだし、でそのまま」

 はははっと笑う彼。

 ──紛らわしい! 読めないなら聞いてよ!! 私の気持ちだってもう戻せないよ!!

 それから私も彼を下の名前で呼んでやることにした。

「なんで名前?」
「お返しですっ」

 そっちも気になっちゃえばいいんだっ!






(注)ここのコンビニは名札がフルネームです


※小鳥遊(たかなし)さんの他にも月見里(やまなし)さんとか四月一日(わたぬき)さんとか一(にのまえ)さんとか候補はあったんですが、タカナシさんが字面がかわいかったので。




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