ずっと(後) 大学の一番高い棟の屋上から、彼女は遠くの花火を眺めている。ここから見える花火は直径1cm、音も届かない。あの花火の下に彼らはいるのだろうか。 「アホですね。好きだった癖に」 声をかけると彼女はビクッとして振り向いた。 「何でここ……」 「前言ってたじゃないですか先輩。ここなら花火両方満喫できるって。みんなはいくら見えても小さくちゃつまらん! で終わりでしたけど」 「行かなかったの? 花火」 その問いに俺は答えず缶ビールを差し出した。ちびりとビールを飲む。 「……知ってたの?」 彼女も俺も互いを見ず花火を観ていた。ぽんぽんと遠くに咲く小さいカラフルな花。 「……いつも黙ってみんなのサポートする先輩を尊敬してます。自分より他人を優先するとこも。好きな人さえ、友達に譲っちゃうとこも」 「違う。譲ったんじゃない。私じゃダメだってわかってただけ。みんなを優先するのも争うのが面倒なだけ。臆病なだけだよ」 「そう、臆病なのにそれを微塵も見せずに飄々とした態度を取ってるとこも。先輩上手く隠してたと思いますよ。多分気づいてたの俺だけだ」 わかるんだ。 俺も見てたから。 ずっと。 あんたもアホだったんだね、と笑った彼女の頬は光っていた。 「こういうときって、自分のことを好きな人間がいればちょっとは元気が出るかな、と思ったんですけど。つけ込もうとかは思ってません。ただ、俺もきっかけが欲しかった」 後輩が肩に触れようと伸ばした手を、ひょいとかわす。 「つけ込むつもりじゃないんでしょ。10m離れて座って」 「えっ……」 こんなときは雰囲気的にもうちょっとこう流されて親密になっても、とかなんとかブツブツ言ってる。アホめ、そう簡単になびくと思うな。 でも、確かにこんな夜は誰かがいてくれるとありがたい。 [prev][contents][next] ×
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