左手 | ナノ


左手
 


 休日に彼とぶらりと出かけたショッピングモールで目に留まった雛人形の特設コーナー。そういえば、実家ではもう何年も出してないなあなんて思う。
 隣を歩いていた彼が私の視線の先を追い、雛人形に目をやってから、あれ?と首を傾げた。

「あの並び方、男女逆じゃね?」
「お内裏さま?」
「そうそれ」

 見ると、向かって左が男雛で右が女雛。

「うちではああだけど」
「え、俺の実家は多分逆やで」
「そうなの?」

 彼はあれよあれよという間に特設コーナーの店員に近づいていく。恐らくこの疑問を尋ねるのだろう。関西出身の彼は明るく人好きで、知らない人でも何でもすぐ話しかけるし親しくなる。人見知りな私も気が付くとあっという間に彼の知人から友人、そしていつの間にか恋人に変わっていた。


 その場で待っていると彼が小走りで戻ってくる。

「西と東で違うらしいわ」
「そうなの?」
「色んな説聞いたけど、俺がいちばん気に入ったやつの話をしよう」
「どうせなら全部してよ」
 彼が私の左手を握る。並んで歩くときはいつも彼が左。
「たとえ東でもやっぱり俺はこっち側やな」

 武器を握って大事なもん守るために利き手は空けておくんやて。

 右利き前提の話だけど。


 彼は左利きなのだ。






(afterword)
もっと一般的な説があるんですが私的萌えな説を。
(関東はというより西洋は?)右で武器を持ち左で女を守る、と。
彼は左利きなので東仕様だとしても、左側に立つぞ、ということなのです


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