まいごのままの女の子 猫のニーナがいなくなってさびしくなったものの、『おとしものあずかり屋』にはそこそこお客さまがやってきます。 さがしにくるものは、さまざまなものです。ほかの人からみたらどうでもいいようなものもあります。 らくがきのような絵をかいたスケッチブックだったり、ふるぼけたちいさなちいさなベビーシューズだったり、すこし空気のぬけたサッカーボールだったり、そうそう、0点のテストなんていうものもありました。 お客さまも、いろんな人がきます。かたことがやっとしゃべれるぐらいの小さな子から、こしがすっかりまがったおとしよりまで。でも、そうですね、小さい子はあたりまえですが おとしてすぐのものをさがして、そしておとしよりは おとしてだいぶたってからのものをさがしにやってくることが多いでしょうか。 今日やってきたお客さまは、少年です。ユッカよりも少し年上にみえます。 さて、この人がおとしたものは、何なのでしょうか。 「ぼくのあねを、さがしています」 そういわれてもユッカはそれほどおどろきませんでした。この前は、猫のニーナをさがしにおじいさんがやってきたし、今までも、そういう生きているものをさがしに来たひとは何人かいたからです。 「ぼくは、ここよりも遠いところに住んでいます。たまたま今この町にきていて、そこで食堂でとなりのせきにすわった 猫をだいたおじいさんが、さがしているものがみつかる店があると教えてくれて」 「どんなおねえさんですか? なぜさがしているのですか?」 いつものとおり、ユッカは少年にたずねました。 「あねはぼくがうまれる前に、町でいなくなってしまったそうです。だれかにつれていかれたのを見たといった人もいたらしくて、けいさつも両親もいっしょうけんめいさがしたそうですが、みつからないままなのです」 ユッカはちょっとさびしく思いました。なぜなら、今この店に、“あね”にあてはまる、つまり人間の女の子はひとりしかいないからです。その女の子はユッカよりも年下のすがたをしていますが、この店の時間のながれは外とはちがいます。そしてなによりも、その少年のすがたはとても…… ユッカは、ニーナのように、かのじょともわかれるときがきたのだ、と思いました。 「おさがしの人は……ここには、いませんよ」 ぽつりとそう言ってうしろのドアから出てきたのはアナです。 少年はアナの顔をみて、ハッとしました。なぜならその女の子は、少年のおかあさんと、そして少年ほんにんにもとてもよくにていたからです。 「あなたは……」 「アナ、きみにもやっとおむかえがきたよ。かれといっしょに家にかえりなさい」 「いや……。わたしがいなくなったらユッカはひとりになってしまうでしょう」 「ぼくにはピアもヴァロもいる。ずっとおかあさんいいなって言ってたじゃないか」 「だって、いきなりもどったって……」 「かぞくだから、きっとだいじょうぶだよ。なにしろかれはこのお店に来れたんだから」 「でも……」 「おねえさん、おかあさんはいまびょうきでちょっとよわっている。おねえさんにあいたがっているんだ」 おかあさんがびょうきと聞いて、アナはびくっとしました。 ユッカはアナをカウンターの前におし出して、少年のそばにいかせると、 「ヴァロ、お客さまがおかえりだよ。おみおくりして」と言ってうしろのドアにきえました。 すこしさびしげなヴァロにつんつんと押され、ドアの外に出されたとたん、アナのすがたは少年とおなじくらいの女性のすがたにかわりました。 「さようなら、アナ」 ユッカはドアの奥でつぶやきました。 [prev][contents][next] ×
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