おかあさんのてぶくろ | ナノ


おかあさんのてぶくろ
 




 『おとしものあずかり屋』には、1日2回、おとしものが届けられます。
 ユッカはそれを整理してノートに書きつけ、アナに渡します。アナは店の奥のドアの向こうにある棚にそれらをしまっておきます。

 そして、その他にも、この店の手伝いのものたちが町でおとしものを見つけて店にもってきます。 
 その手伝いのものたちとは、小鳥のピアと犬のヴァロ、そしてまっ白な猫のニーナです。
 彼らはバラバラに、いつのまにかどこからともなく店にやってきて、そのままいついてしまいました。
 ちなみに、このまえのぬいぐるみは、ピアが見つけたものを、ヴァロがくわえてもってきました。
 ニーナはおとしものをあまり見つけてはきませんが、アナといっしょにおとしものを整理して、棚にしまうのをてつだいます。そして、実はどこになにがしまってあるのか、アナよりもよくわかっているのです。


 さて、そんな『おとしものあずかり屋』に、今日もお客さまがやってきました。

「あの……、ここのお店に、なくしたものがあるって聞いてきたんですけど」

 今日やってきたのは、男の子です。ユッカよりは少し年下でしょうか。

「なくしたものは、なんですか?」ユッカがたずねます。

「ずいぶん前になくしたものなんですが、ここにありますか?」
「さて、どんなものか聞いてみないとわからないけど」

 男の子は、ちょっとためらってから話し出します。

「ほんとうは……なくしたというよりは、すてたんだ。本当のおかあさんがあんでくれた手ぶくろを。本当のおかあさんは、前にびょうきでしんでしまって、今はあたらしいおかあさんがいるんです。あたらしいおかあさんはとてもやさしくて、かわいがってくれて……それで、ぼくに手ぶくろをあんでくれて。ぼくは、前のおかあさんの手ぶくろをもっているのがわるい気がして……すててしまったんだ」

 男の子はうつむいて、りょうがわにおろしていた手をぎゅっとにぎりました。

「でも、そのあと、これでよかったはずだっていう気持ちと、なんですててしまったんだっていう気持ちのあいだでぐらぐらして。ぼくのようすがおかしいと思ったぼくのいとこの女の子がどうしたのって聞いてきて、全部はなしたんです」

 いつのまにか、うしろのドアからアナも出てきていて、男の子の話をユッカといっしょに聞いていました。

「ほんとうにだいじでもういちどとりもどしたいなら、おとしものをあずかってくれているお店をおしえてあげるって。いとこもうさぎのぬいぐるみをそこであずかっててもらったからって。それでこのお店の行き方をおしえてもらったんです。今のおかあさんのこともだいすきで、今のおかあさんにわるい気もするんだけど」

 男の子は顔をあげて、ユッカにまなざしをむけました。

「ぼくの、てぶくろはありますか? 青と白のしましまの」

 ユッカはアナをふりむきました。うしろのドアの向こうのあずかり棚からさがしてくるように言うつもりなのでしょう。
 アナはユッカにかるくうなずいてから、男の子にいいました。

「あのね、きっと今のおかあさんは、前のおかあさんのものをすてなくていい、だいじにしていいっていうと思うよ。それで、前のおかあさんといっしょにあなたをあいしてそだてていってくれるんじゃないかな。だから、悪いと思わないで。どっちのおかあさんもだいすきでいていいんだよ」

 男の子ははっとした顔をしました。

「うん……。ぼく、どっちのおかあさんもだいすきだ」

 アナはそのことばを聞くと、ドアの奥に入っていきました。そしてすぐに出てくると、手には青と白のしましまの手ぶくろをもっていました。

「ふたつの手ぶくろはかわりばんこに使うといいよ。ずっとつづけて使うといたむしね」
「うん、そうする……」

 男の子は大事そうに手ぶくろをかばんにしまってユッカたちにおれいを言うと、赤いドアを開けて出ていきました。

 アナはえがおでつぶやきました。

「おかあさんがふたりもいて、いいね」
 わたしはおぼえていないから、と。






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