七年目の羽化 | ナノ


87 七年目の羽化
 


 ずっと好きだった。
 けれど告白する勇気が出ないまま片思い7年めに突入していた。セミも孵るわ。


「もうできあがってんのかよ!」
「遅いー! かけつけ一杯〜」

 学生時代のサークル内で付き合いだしたカップルがこの度7年の交際を経て結婚することになった。今日はそのお祝いだ。金曜夜、仕事が上がった者からいつもの飲み屋に集合。集合時間からいた私は3時間後に彼が来たときにはすっかり酔っ払って寝オチ寸前だった。

 実はこれは計算。
 彼はこの飲み屋の近くに住んでいてよくみんなで部屋になだれ込み、寝オチした者は大抵泊まる。集団でだけど。しかし今夜、まだみんなはこれからカラオケに行くはず。彼は私一人を部屋へ連れて行くという寸法だ。そこで……そこで……


 襲ってくれないかなって。(受け身)


 寝オチ(のふり)した私を案の定彼は自分の部屋に連れ帰ったが、彼は私をベッドに寝かせ寝息(のふり)を確認すると、カラオケに行ってしまった。そして朝まで帰ってこなかった。

 私はベッドに潜ったまま泣いた。孵化すればよかった。地中に潜ったままじゃなく。






 彼がカラオケに行ったわけでなく実は玄関前で自制していたことに気付くのは、帰ろうと玄関を出たときです。






2014.9.19



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