84 メトロノームの同期現象 好きと告げられたとき、自分には彼女がいた。 気の置けないサークル仲間の女の子。「彼女いるから……」と言う俺に、うん、ごめんね、ちゃんと友達に戻る、そう言った彼女はその言葉通り、ずっと良き女友達だった。 俺がその時の恋人と別れたときには、彼女には告白されたとかいう彼氏がいて。 こっちが誰かと付き合うと向こうは別れてて、俺がダメになるとやはり彼女には恋人がいた。 そして今。 「──オトコいないの?」 「そっちこそ……」 三十路を迎えた今年、今時アレな感じなのだがお見合いってやつに出向かされた。母親のどうしても立場的に上の、お世話になった人からの紹介らしい。その出向かされた先に、驚いた顔の彼女がいたわけだ。 「そっちから上手く断ってよ」 「なんで」 「なんでって……」 本当はずっと気になってた。でも自分には彼女がいて、その後は他の男から奪う意気込みが出なくて、俺は俺で他の女の子からアプローチされて。 でも、いつも反対向きだった俺と彼女の針が、いま同じ向きになっている。これは乗っかるべきじゃないか? 「結婚しよう?」 惜しむらくは自ら動かずこの状況が流れ込んできたことだが、この際どうでもいい。 2014.9.14 [prev][contents][next] ×
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