いじめられっこいじめっこ | ナノ


83 いじめられっこいじめっこ
 


「あんたのこと好きなんじゃないの?」
「絶対ないから」

 大学内で有名人の通称『王子』(色素薄くて美形だから)は、私にやたらちょっかいを出す。
 先日は学食でから揚げ定食のから揚げを全部食べられ、体育のあとの汗びしょびしょのTシャツを顔面に投げられ、背中に貼り紙された。ちなみに貼り紙に書かれた内容は「この子デベソ」だ。断っておくが私はデベソではない。

 皆、王子は私のことが好きなのだと思っているが、私だけは知っている。

 あれは全部  復 讐  なのだ。


 実は私と王子は小学校の同級生で、当時私は彼をいじめていた。
 給食で王子の分のゼリーを食べ、濡れた雑巾を頭に乗せ、背中に「うんこ」と貼り紙した。王子は今それをやり返しているのだ。私は甘んじて受けるしかない。あの時のことは後悔してるから。実はそれこそ好きの裏返しだったのだが。


「なんで怒らないの」

 あるとき王子が訊いてきた。

「理由をわかってるから」
「本当にわかってる?」
「うん」
「じゃあいいよね」
 そう言うと王子は私の顎に手をかけ、キスをした。


「好きな子ってついいじめちゃうんだよね。僕も、──あのころの君も」






2014.9.12



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