kiss me, please | ナノ


70 kiss me, please
 


「えっと、あの、あのね。……キス、してみたい」

 学校からの帰り、寄り道した夕暮れの公園で、思い切って彼に言った。
「う、うん。俺も……」
 彼が応じたので、向かい合って、私は目を閉じた。
 幼なじみからカレカノに昇格して半年。中学生の私たちはまだ手を繋いだことしかない。

 ドキドキと待つ。しかしいつまでたってもアクションがない。

「……?」
 そーっと薄目を開けると、彼も目を閉じていた。

「ちょ、私から!?」
「え、だって普通言いだしっぺがやるもんだろ」
「普通男からでしょ!」
「男女差別だ!」

 ギャーギャーやっていたそのとき、いきなりそばを猫が飛ぶように横切った。
 思わずびっくりしてよろけて彼に倒れかかって、彼が私を支えようとしたけれど二人してコケて、そのときに彼と顔がぶつかって口もぶつかった。

「…………」
「…………」

 初めてのキスは──痛かった。



「……えーと、どうする? やり直す?」
 彼が私に訊いてくる。
「──今日はノーカンで。また今度仕切り直す」


 もうこうなったら徹底的にロマンチックなシチュエーションでやってやる!
 海辺か、観覧車か、富士山の頂上とか!?


「ちょ、最後のヤメロ」





2014.7.31



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