甘いカレ | ナノ


68 甘いカレ
 


 え、うそ。

 満員電車でお尻に手。もぞりとスカート越しに動いてる。
 ちらっと見ると後ろは若いサラリーマンとハゲおじさん。サラリーマンは吊り革を両手で持って窓の外を眺めてるから……このハゲおじさん?
 やだやだどうしよう。友達はいざ痴漢に遭うと何も言えないって言ってて、何でよ大声で「この人痴漢です!」って言ってやればいいじゃん、そう思ってた。けど本当に言えないんだ……。
 やだやだやだどうしよう。どうすればいい?

 そこで、お尻から手が離れた。
 ほっとしつつも警戒しながらまた後ろを見ると、今度はサラリーマンだけが後ろにいた。見上げると、彼は私の視線に気付いてちょっと口の端を上げた。


 そのうち電車はターミナル駅に着いた。一斉に乗客が降り、人の波に乗りつつさっきの彼が私の横に並んで歩く。
「気付くの遅れてごめんね。手首掴んだんだけど逃げられちゃった。追いかけようと思ったけど俺も朝イチ大事な契約があって。あとあのおっさんも家族とかいるのかなーとか思ってさ。甘くてごめん。次やってたら今度は突き出すから」
 そして早足に先に行ってしまった。


 確かに彼は甘かった。


 この後(のち)、私にも激甘になるんだけれど、私も彼もまだ知らない。



2014.7.28



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