63 夏恋サイダー ばしゃっ。 何が起きたのかわからなかった。暫くして感じる、冷たさ。前髪からぽつりぽつりと水滴が落ちている。夏休みの部活、校庭の隅で、もう上がろうと一人ストレッチをしているときだった。 「人の彼女取るなんてサイテーだな!」 目の前には他校の制服を着た見知らぬ男。男の手にはサイダーのペットボトルが握られていた。ああ、あれをかけられたのか。ん、ちょっと甘い。 「あなたの彼女を取った憶えはないんですが」 「俺じゃねえよ! 俺の友達だよ!」 「は?」 「俺たち三人幼なじみなんだよ! あいつらあんなに仲良かったのにお前が現れてからあいつ寝ても覚めても『アキラ先輩アキラ先輩』って。遂にこの間奴がキレて、大ゲンカだよ!」 そこで見当がついた。1年のあのマネージャーのことか。 「おい! どこ行くんだよ!」 「着替えてくる。ちょっと待ってな」 制服に着替えて出てくると、男は唖然とした。 「と、いうわけで“私”は彼女を取った憶えはありません」 出直してきな、とペットボトルを奪って残りのサイダーを奴にぶっかけた。 ──そしたら本当に出直してきた。先輩、俺と付き合ってくださいって。 マネージャーとケンカしてる。もう勝手にやってくれ。 2014.7.16 [prev][contents][next] ×
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