世界でいちばんおさない結婚2 | ナノ


episode 2
 


 私とルイは、それぞれが1歳と0歳のときに結婚した。つまるところずばり政略結婚である。

 正確には私は生まれおちて1年経ってはいなかったが、この国では新年を迎えると1つ歳をとる。私が生まれてからルイが生まれるまでの数ヶ月の間に新年が明けたので、私は先に1歳になった。というわけで私はうっふん年上妻である。

 簡素な結婚式は、それぞれ女官が私たちを抱え、喃語で誓いの言葉を述べ、ルイの顔を私の頬に寄せてよだれを……いやキスをさせ、その逆をさせ、結婚証明書には親指にインクをつけてサインしたというもの。当時の媒体(メディア)を見たから間違いない。

 それにしてもどうしてそんな右も左もわからないどころでない、まだ魂だってきちんと宿っているか定かでないような年齢、いや月齢で結婚したのか、それにはもちろん理由がある。まあ割と妥当かつ真っ当な理由だと思うし、別に私が語るこの物語には不要だと思うから、それについては今は割愛させていただく。

 ルイは生まれおちたその日から、王であった。一応戴冠式(と結婚式)をしないと正式には王じゃないのだけれど、とにかくそうなのだった。
 ルイが生まれたとき、私は1歳とはいえ正確には7ヶ月程度の赤ん坊だったが、即座に婚約が決定し、3ヶ月後に結婚式が執り行われることになり、そして冒頭通りの式をすませたわけだ。


 ルイと私は一緒に育てられた。
 6歳を過ぎると、午前中は勉強──国語・数学・地理・歴史・(一応)帝王学・経営学など──を一緒に教わり、午後は乗馬・作法・奉仕活動など、たまに夫婦(笑)分かれそれぞれ嗜みとしての武道や刺繍などを学んだりする日々。

「妃殿下、妃殿下は武道は嗜まなくてもよろしいのですよ」
「いや! わたしもJUDOするの! ルイだけなんてずるい!」
「マリはあしわざがとくいなんだよね」

 始終こんな感じで三度の食事はもちろん就寝も一緒の寝台で共にする。入浴は7歳から別々だったが。

「ルイといっしょにはいる!」
「妃殿下。妃殿下はもうレディなのですから」
「いや! ルイといっしょに……」
「──妃殿下」
「ひ、ひとりではいってくる……」

 ほんと、この女官(長)はどうにかならないものか。


 さて、政治は、王国首相である私の祖父が執り行っていた。
 ここで断っておくが、別に王室乗っ取りとか首相が影の国王とか、そういうのではない。小さな我が国は、基本的に平和でのほほんとしている田舎びた国で、政治といっても、国の農産物をいかに改良し他国と貿易するかとか、先日の大きな風雨で飛ばされた城下の屋根の修繕とその費用をどうするかとか、観光客をたくさん呼べるようなんとか無理やり名産品を作り上げようとか、そんなことだ。だから上には(一応)帝王学、と書いてある。一応、なのだ。

 ちなみにおじいさまは前国王の親戚で、つまり私とルイも遠縁の親戚関係である。狭い。狭いよ。さすが田舎。

 そもそも私とルイの結婚だって、まあ確かに国王は妻帯していなければならないという我が国の法律にのっとったこととはいえ(これが上記の真っ当な理由のひとつである)、それに便乗して「世界で一番小さな王族夫妻!」なんていって、小さくてkawaiiモノ好きな海外の婦女子あたりをねらって我が国をアピっているのだ。私たちは見世物か、釣り餌か。実際そこそこの外貨を稼いだらしい。私には何の見返りもなかったけれど!
 ちゃっかりしている。狸じじいってああいうのを言うんだ。



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