55 雨の日ロマンティック 普段は自転車通学なんだろう。 雨の日だけ、私が乗るバス停の3つ先から彼は乗ってくる。 そして終点の駅で降りて、改札を抜けて、反対のホームに降りて行くのだ。 彼の存在に気付くまでは面倒で憂鬱な雨の日だったが、今や朝起きて雨が降っていると思わず笑みがこぼれてしまう。雨雨、ふれふれ。 * ある休日、駅前で彼と偶然会った。本当に、ばったりと、目の前で。 私の顔を見た彼は、咄嗟に手のひらを上に向けて空を見上げる。 彼の仕草に、周囲の通りすがりの人たちもつられて上を見た。誰かが「え? 雨?」と言ったのが聞こえる。が、この日は快晴。 つまりえーと、彼は私を認識していて、そしてその認識の仕方は、私イコール雨、ということ? ぽかんとしていると、彼はそんな私に気付いてちょっと気まずそうな顔をした。 「ごめん、あの俺、いつも雨の日に君をみかけてて、それでつい……」 やっぱり。思わず声をあげて笑うと、彼はちょっと驚いたような顔をして私を見て、そして、時間があるならちょっと話さないかと誘った。私が買い物の予定を放り出したのは言うまでもない。 * バスに乗る。前と違うのは、雨じゃない日でもたまに彼が乗ってきて、会話するようになったこと。 (after word) そして彼女の右手が握るのは、雨傘から彼の手に 2014.6.7 [prev][contents][next] ×
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