Lovestruck-C-girl | ナノ


Lovestruck-C-girl
R15 

   

  
 
 春だ。
 
 3月下旬。年度末で忙しいっちゃ忙しいが、やることやればそこまで問題ない。そんな金曜日の夜、久々にことりと横浜で待ち合わせた。彼女の方も、修了式・卒業式も終わり、学校は春休み中とは言えど教師は普通に勤務しているわけで、今日も仕事だ。しかし、児童がいるわけではないので勤務自体は定時で終わる。結構待たせることになってしまったが19時半に待ち合わせて、キッチンダイニングで食事をした。

 もちろん、今日は自分の部屋へ連れて行くつもりである。去年の年末に初めて連れ込んだものの、年明け以降は仕事が忙しかったり、弟がうるさかったりで、あっちの回数は実は今日がうまくいけば4回目。あ、こいつしっかり数えてやがるとか思われるのは心外ですから。これぐらいまでは普通憶えてるもんだろう? ちなみに4回というのは連れ込んでシた機会という意味の回数であって、俺個人の回数ではないとだけ断っておく。あと、部屋に来ただけ(・・)ならもう少し回数は増えるが、そっちの回数はどうでもいい。

 食事後に、なんとか意思を擦り合わせ、翌日の弟への対応を引き受けることを条件に自分の部屋へと向かう。
 すると、ことりが俺に聞いた。
「五十嵐くんち、アルコールある? 缶ビールとかチューハイとか」
「え、どうだったろう。平日は飲まないし無いかも」
「じゃあコンビニで買ってってもいい?」
「いいけど……飲み足りなかった?」
「ううん、そういうわけでもないけど」
「もう1件軽く寄る? チェーンの居酒屋とか。駅前にあるけど」
「いや、いいよ。コンビニで買ってく」

 うちから一番近い、酒を扱っているコンビニに寄るとことりはカゴに缶ビールとチューハイをがこんがこんと5〜6本入れている。
「そ、そんなに飲むの?」
「いや全部は飲まないと思う、多分」
 多分?
「五十嵐くんは? ビール?」
「いや、俺は別にいい」
 そんなに飲んだらやることやれなくなっちまうかもしれないじゃないか。

 部屋に入ると、ことりは「これ入れさせてね」と小さい冷蔵庫にアルコール類をぎゅうぎゅう押し込み、顔を洗い、シャワー貸して、あといつものスウェットも借りるから、とてきぱき準備しとっとと風呂場へ消えていった。
 なんだあれは。やる気まんまんなのか? いやそれは大歓迎だけど。

 ことりと入れ替わりにシャワーを浴びてきて、狭い居間のコタツの上を見てぎょっとする。既に開けられた缶は3本目……!!
「ことりさん……、えーと、キミそんなにお酒好きな子だったかな?」
 バラエティ番組をみてけたけた笑っている(そう、結構な声を出して笑っている!)彼女は振り向いて「えー、ふつう」とふにゃりと笑った。これはキている……!


 俺は今まで部屋に連れ込んだとき(くどいが、アレをしたときの回数だ、回数というのは機会という意味であって決して俺個人の回数のことでは以下略)の様子を記憶から掘り起こして、ふと気づいた。

 俺とするとき、ことりはいつも酔っ払ってないか?

 2回目は年が明けて正月休み中だったが、「正月だから」と昼間からうちでビールをがんがん飲んでいた。まだ真っ昼間で、まあ真っ昼間から(俺が)サカったわけだが、終わったあとはぐーぐー寝て、宵の口に家まで送っていった。
 3回目はバレンタインデーのときで、外でメシを食ってるときに、ワインをことりがほぼ一人でボトル1本あけて、ご機嫌な足取りでうちに向かった。そして、冷蔵庫からまた「レモンのジュース」と言ってグレープフルーツのチューハイを開けてたっけ。
 以上のことから鑑みるに。

「ことり……、君さ、もしかして、酔っ払わないと、セックスできない……?」
「…………」

 ヤケとかそういうことではないというのは、最初のときにわかっている。そっちの方面ではもう疑わない。多分。だがしかし。
 俺はコタツに入っていることりに膝を詰めて尋ねた。
「もしかして、今までどっか痛かったとか? 酔っ払って気を紛らわしてるとか……。俺なんかひどいことしてる? ちょっとこれは正直に言ってくれ」

 これは精神的な問題ではなく物理的な問題なのではないかと俺は考えた。アルコールで痛覚をごまかすとか? え、でも今までそんな無理な体勢させたことはないつもりだし……。え、俺ヘタなのか? でも今までそんなこと言われたことは……(過去の彼女ら回想中)って言うわけないか!

「ことり、ちゃんと言って。これは重要なことだ。非常に重要なことだ!」
 なんだかわからないが、すごい不安にかられる。どうして彼女はいっつもこうブンッブンと俺を振り回すんだよ……!

 ことりは、眉間に皺をよせたまま俺を睨むと、ぷいっと顔を横にそむけた。

「ことり!」
「──だって」


「だって、もう飲んでないと、どうにもこうにも恥ずかしくてやってられないんだよ〜」

「……………………え?」



 曰く、初めてのときはやはり酔っていたから、ぺらぺらと言葉も出てきたし、行為自体も全然抵抗なかったが、朝になって理性が戻ったときに、とんでもなく羞恥心が湧きあがったのだという。かといって後悔しているわけではないし二度としたくないというわけでもないし、男の性というのも一応わかるから今後も拒むつもりはない。
 じゃあどうするか。

 初回と同じように酔っ払っとけばいい。

 そう自己解決した。


 俺は、一瞬ポカンとしてから、噴き出してしまって、しばらく笑いが止まらなかった。
「なにそれ、そこに酒の力を借りるわけ?」
 ことりは笑っている俺をジト目で睨んで、不機嫌そうな口ぶりで言った。
「だって、それに、最初のときもそんなに痛くなかったし、アユが『酔ってたからヘンに力入らなかったんじゃないの、それはいい作戦だねえ』って言うし」
 そこで俺の笑いは止まった。
「だから、どうしてキミとアユちゃんはそういうことまで筒抜けなんだ!」
「他の人には言ってないよ……」
「当然だよ!! 本来なら誰にも話すべきことじゃない!」
「そうなの? とにかく、余計な力は抜けるし、羞恥心も抜けるし、五十嵐くんも抜けて一石三ちょ」
「最後のはいらん!!」
 誰がうまいことを言えと言った!!


 はー。コタツ前で正座して何やってんだろう俺は。
 頭をがしがしと掻く。

「でも、別にいやなわけじゃないから……」

 ぽそっと小さなつぶやきが聞こえた。手にはチューハイだが。
 俺はちょっとだけ笑いをこぼした。そして、ことりの手からチューハイを取ってコタツの天板に置く。

「ま、おいおい慣れると思うよ。とりあえず今日はここまでにしといてベッド行こう。久しぶりで俺サカってるから」

 言ってる内容と矛盾するが俺はなるべくがっついてみえないように優しく笑ってそう言うと、ことりはうっすら顔を赤くした。そして「ちょっと待って。まだ飲み足りない気がする」とまたチューハイを手に取ろうとするので、それをすばやく抑え、背中から脇に手を入れコタツから引きずり出す。ああまたこのパターン。

 酒の力を借りずにおとなしく(?)受け入れてくれるまであとどれぐらい必要なんだろう? まったく君って子は……。



***



「あのさ、私ももっとこう何かした方がいい? その、五十嵐くんに。手とか口とかで」
「…………それもアユちゃんのアドバイスなわけ?」
「いや……まあそうだけど。……だって、なんかつまらなくない? 私といて。だからこう、せめてもっと色々と」
「つまらない? 誰が? ことりが? 何言ってんの? きみめちゃめちゃ面白いけど」
「え? そう? まあたまに人に言われるけど。でも私バイトと勉強しかしてこなかったし。たとえばどこが?」
「──この前、某美術館に行ったとき、駅から出てるバスに直前で乗りそびれたろ? そしたらことりが『道狭いし人多いし信号あるし追いつくかもしれないから次のバス停まで走ろう!』って言って俺の意見も聞かず走りだしちゃってさ、そしたらなんかいろいろルート間違えて結局美術館まで走り切ったじゃん……そういうのとか、先月雪が降った日にかき氷が食べたくなったって言ってnozamaでかき氷器買ったよな、お届け先はなぜかうちで……でも作ってないよな、アレ未開封でクローゼットにあるんだけど……あと、こないだマスクしたままごはん食べれたら便利って言って、マスクの真ん中にカッターで切り込み入れてたよな、マスクの意義って何? みたいな……結局全然うまく食べれてなかったし。それで切り込みじゃなくて丸く穴あけたらカー○おじさんみたいになったよな……。あと一人暮らしのとき、ドライヤーないから真冬でも扇風機で髪乾かしてたとか……髪凍ったんだっけ?」
「よく次から次へとそんなに出てくるね……」
「あともっと前に聞いた、ほら、ケータイの電話帳の登録件数20件とかケータイ洗濯機で洗って新しいの買うまで約1か月とか、」
「今は件数もうちょっと増えてる!」
「そういうの、同僚にすげーウケるんだよな……。“五十嵐の彼女レジェンド”って結構有名で……」
「同僚になんの話してるのよ。今は25件って訂正しといてよ」
「……20件も25件も変わらないから。ていうか……いろんな奴に……お前の彼女に、一度会わせろって言われ…………」
「なにそれ。やだよ会ってどうするの? ……いがらしくん? 寝たの? ちょっと」

 なんだ、ことりって結構恥ずかしがるんだな……
 と思いつつ、今度はほんとに俺が先に寝オチた。




(afterword)
「Lovestruck-C-girl」……「恋するクールガール」
恋……してる、はず! ことりんだって女の子だし!

2014.4.16


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