あめおんなとはいしゃさん | ナノ


あめおんなとはいしゃさん
出かけるときに、かならずといっていいほど、あめがふってきてしまうむすめのお話。




 
すこーしむかしのおはなしです。
とある国の とあるいなかの村のはじっこに、ひとりのむすめが住んでいました。
おりもののじょうずな、たいへんやさしい性格のむすめでしたが、むらのひとには、むすめは『あめおんな』とうわさされ、きらわれていました。

なぜ『あめおんな』といわれているかというと、
そのむすめが出かけるときは、かならずといっていいほど、あめがふるからです。


ただ、そのあめは、あま〜いあま〜い、いろんないろの、まあるいあめなのですが。

***


村のこどもたちは、ほんとうはむすめのことが大すきでした。なんといっても、すがたをみかけるときは、たいていおいしいおいしいあめがふってくるのですから。
だれでも いちどはそのあめをたべたことがあります。
あまーいミルクあじのものもあれば、ちょっとすっぱいくだもののあじ、それからりょうほうあわせたような、あまずっぱいあじのものもありました。

けれど、そのおかあさんたちは、むすめのことがきらいでした。
なぜかというと、こどもたちがあめをよろこんでたべるので、みんなすぐむしばになってしまうからです。
おかあさんたちは、くちぐちに、こどもたちにいいました。

「あのむすめにぜったいちかづいてはいけないよ」
「あのむすめがふらすあめはぜったいたべてはいけないよ」
「いたーいいたーいむしばになってもいいのかい」

こどもたちはおかあさんたちにはさからえませんでした。

むすめは、そんなじぶんのことをわかっていたので、ひつよういじょうに外には出かけないようにしていました。
でも、どうしても週にいちどは、かいものに出なくてはいけません。
そのときは、からだを小さくよせて、はやあるきでかいものをすませました。
こっそり出かけても、あめがふるので、みんなむすめが外に出てきたことはすぐにわかります。
村のひとたちは、むすめのおりものがすばらしいのはしっていたので、あまり口はききませんでしたが、むすめのおりものとひきかえにたべものや糸などをうってあげていました。


***


さて、そんなふうに むすめは日々くらしていたのですが、
あるとき、一人のしょうねんがたずねてきました。
そのしょうねんは、村の中のとある家のしんせきにあたる子で、休みをりようして、村にあそびにきていたのです。

「おねえさん、おいしいあめをふらせることができるんだって? ぼくたべてみたいなあ」
うわさをきいてきたのか、のんきにそんなことをいいます。

「わたしがふらせてるわけじゃないけど……」
むすめはちょっとうらめしげにはんろんします。
「それに、あめをたべるとむしばになってしまうわよ。わたしはそのせいで、村のひとにきらわれているの。あなたもわたしにはちかづかないほうがいいわよ」

しょうねんは、びっくりしていいました。
「あめをたべただけで、むしばになんかなるもんか。きちんとはみがきしたり、はいしゃさんにいったりすれば、だいじょうぶじゃないか」
「はいしゃさん?」
「しらないの?」

しりません。
そうなのです。この村は あまりに国のはじっこにあったので、はいしゃさんがいなかったのです。だれもはいしゃさんというものをしりませんでした。

しょうねんは、むすめにせつめいしました。
「むしばをちりょうしたり、はみがきのしかたをおしえてくれたりするおいしゃさんだよ。はみがきってしってる?」

しりません。
じつは、まずしいこの村には、あまいおかしがほとんどありません。ですから、ふつうにしょくじをして、そのあとおちゃやお水をのめば、今までむしばなどにはなりませんでした。
けれど、むすめがうまれて、あめがふるようになってから、むしばになる人がふえてしまったのです。

むすめは、はいしゃさんという人にあってみたくなりました。
それをしょうねんにつたえると、「じゃあ、10日後にぼくが家にかえるときに、いっしょにぼくの町へいこうよ。そこに はいしゃさんがいるよ」とむすめをさそいました。


***


10日後、しょうねんとむすめは、いっしょに町へと向かいます。
とうぜんあめがふるので、しょうねんは大よろこび。「むしばになるわよ」とむすめがちゅういすると、「だいじょうぶだいじょうぶ」と、ちいさいほうきのようなぼうをとり出して(はぶらしなのですが、むすめはそれをしりません)はをごしごしみがきます。
とちゅうとちゅう、やどにとまりながら、3日後に町につきました。

さっそく、しょうねんのかよっているというはいしゃさんにつれていってもらいます。
とうぜん、町にあめがふりました。けれど、町の人たちははじめはびっくりしましたが、よろこんであめをたべました。だれもむすめをせめません。

はいしゃさんは、やさしそうなおじさんでした。
「これはこれは、めずらしいおじょうさん。てがみで、この子からはなしはきいていたよ。きちんと、はの手入れのしかたをおしえてあげるから、村のひとにもおしえてあげなさい。そうすれば、みんなおじょうさんのあめが大すきになるはずだ」
そうして、むすめは、はみがきのしかたや、むしばのよぼう法をはいしゃさんからおしえてもらいました。

「けれど、村で、もうむしばになっている子はどうしたらいいのかしら。私はなおせないわ」
むすめがおそわったのは、これからむしばにならないようにするほうほう。
すでにむしばになってしまっている人をなおすことはできません。
そこで、はいしゃさんがいいました。
「なら、わたしのむすこを、その村へやろう。むすこもはいしゃだからね。いままでふたりでこのしんりょうじょをやってきたが、そろそろどくりつさせようとおもっていたんだ」
「そういえば、きょうは、わかせんせいは出かけているの?」
しょうねんがはいしゃさんにききました。
「ちょっとかいものをたのんだんだよ。もうそろそろかえってくるよ」

そういっているそばから「ただいま」というこえがきこえてきました。
すぐに「めずらしいあめがふっているね。たべてみたけど、すごくおいしかった」といいながら、一人のせいねんがへやに入ってきました。そして、むすめと目があいました。しばらくふたりは見つめあっていました。
「あれ? あめがやんでる」しょうねんがまどの外を見てつぶやきました。


***


それから、しばらくして、むすめの村の、むすめの家のすぐちかくにはいしゃさんができました。
わかせんせいは、こどもたちのむしばをちりょうして、それからはみがきのしかたをおしえて、そしてついでに村のおじいさんおばあさんのいればも作ってあげました。

村のひとたちは、はいしゃさんをつれてきたむすめにかんしゃをし、そしていままでのことをむすめにあやまりました。

ふしぎなことに、前よりも、むすめのあめはふらなくなりました。けれど、まったくふらなくなったわけではなく、たまにざーっとふるので、そのときに、村のひとたちはそのあめをあつめて、だいじにとっておくようになりました。
そのうち、そのあめは村のめいさんぶつとしてあつかわれるようになり、よいねだんでとりひきされ、村はすこしゆたかになりました。



「ただいま」
わかせんせいが、ちかくのしんりょうじょからむすめのうちにかえってきました。
「おかえりなさい」むすめがゆうごはんをつくりながらふりむきます。いつのまにか、わかせんせいはむすめのうちにおむこさんとしていっしょにすんでいるのです。
「とうさんのところにようじがあるから、あしたから町へ出かけてくるよ」
「わかったわ。きをつけてね」
「村のひとたちにも、ぼくがいないからあしたからしばらくあめがふるっていっておかないと」
むすめはかたをすくめます。けれど、すぐにふたりはしあわせそうにほほえみあいました。


「なんたって、ぼくは『あめおんな』をまかすぐらいの『はれおとこ』だからね」




おしまい


(after word)
「小説家になろう」内 企画『冬の童話祭2014』参加作品

2014.1.23



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