24 パティシエ代行業 今年のバレンタインは休日なので、金曜の今日が当日のようなものになる。 「はい、ご注文の品」 私は廊下の片隅できれいにラッピングしたブラウニーを彼女に渡した。 「わあかわいい! ありがとう!」 彼女は満面の笑みで包みを抱えて去っていった。側で友人らが笑う。 「他人が作ったとも知らず食べるオトコが哀れ」 「まあまあ、もらうなら美味しいものの方がいいじゃん」 私は知る人ぞ知る菓子作りの名人だ。親が店やってるし。バレンタインはこういう注文が結構入るいいバイトなのだ。 「今年は何個作った?」 「10」 「繁盛してるねえ」 放課後の昇降口の隅で、さっきの彼女が例の品を相手に渡しているのが見えた。あれは、私の幼なじみだ。 ねえ、それ本当は私が作ったんだよ。あんたには今まで一度も渡せてないけど……。 私は踵を返してその場を去った。 ひと月後。部屋でごろごろしていた私の元に彼がやってきた。 「ほいコレ」 クッキーやキャンディの包みが3個。頭にハテナを浮かべる私に彼が言った。 「同じチョコ3つもらえば事情はわかるよ」 何故作ったのが私だと。ていうか3人も被ったんだ……! 「というわけでお返し。3人は断ったから」 もらってくれるよね? 彼は笑った。 2014.1.4 [prev][contents][next] ×
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