height! hate! height! | ナノ


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「ナナ、何センチだった」
「136.8。サッチは?」
「……」
「サッチ?」
「なになに、136.2……」
「ちょっとスウちゃん! のぞかないでよ!」

 4月の身体測定で、今年もサッチに抜かれることなく前から二番目が決定した。ほっ。
 カオさんが私とサッチのアタマをてんてんとたたく。やめてほしい。ちぢむ。

「いいじゃん小さくても。あたしなんかまた伸びた。156センチだったよ」
「カオ、きょじん……」
「スミレ、なんか言った?」
「いいえ」

「まあいいじゃんサッチ。ナナなんか名字が『赤沢』だから出席番号順でも前なんだよ。一生後ろには縁がないだろうね。それに比べりゃサッチは『田中』だから少しは後ろの気分もあじわえるじゃん」
 スウちゃんはなぐさめてるんだろうけど、なんだかテキトーというか乱ぼうな感じがするのはなぜだろう。それに何げに私にはさらにダメおししている。ひどい。
 スウちゃんは名字も身長も真ん中だ。そんなひとに私たちの気持ちなんか一生わかるわけない。くそ。あ、クソって言葉使うとママがおこるんだった。でもあえて言おう。くそったれ。

「でもさあ、あたしなんか大きいか小さいかっつったら小さい方がよかったよ」
 カオさんがしみじみ言う。
「たいていの男子より高いから、なんか怖がられるし、デカいデカい言われるし。こないだなんか木村に『アンドレ』って言われたんだよ」

「アンドレってなに?」とサッチ。

 少女漫画に詳しいスウちゃんがハイっと手をあげた。
「あたし知ってる! あれでしょ『ベルばら』! ママが持ってるんだ。オスカルとアンドレのアンドレ! え、でもなんでアンドレ? やっぱり大きいから男あつかい……っいて!」
 ここでカオさんのげんこつがスウちゃんの頭にふるわれた。背が高い人の上からのげんこつは痛そうだ。

「ベルばらはあたしも知ってる。でもそのアンドレじゃない」
 カオさんは無表情で続けた。こわい。

「お父さんに聞いたんだ。クラスの男子があたしのことアンドレって言ったんだけど、何のことだと思う? って。そしたら……」
 カオさんの目がどんどんつりあがっていく。だからこわいよ。
「むかし活やくしてたプロレスラーのことだったんだよ。アンドレ・ザ・ジャイアント。身長なんと2メートル以上。別名『人間山脈』」

 2メートル……。なんだかピンとこない。

「お父さんは『よくそんな昔のプロレスラー出してきたなあ。懐かしいなあハッハッハー』って笑ってたけど、あたしは怒りでなんの言葉も出なかったね」

 チェ・ホンマンより高いんだよ! と静かにおこるカオさんがほんとにこわい。わきあいあいと身長の話をしていたはずがわたしたちの間はなんだかシーンとこおりついたので、こういうときに話をすりかえるのがうまいスウちゃんが「そ、そうなんだ。カオどんまい。あ、それにさ」と言い出した。ナイスです。

「ママが言ってたよ。『運動会のときに前の子の方がカメラでとりやすい』って。サッチやナナは真正面からばっちりとってもらえるじゃん。カオだって、一番後ろだから後ろからとれば、まあオシリにしろ、ちゃんと写るし。あたしなんか真ん中だから、ぜんぜんとってもらえないよ」
「別に体操のときなんかとってもらわなくていい」
「オシリなんかイヤだ」
 小さいのと大きいのに同時に冷たく言われてさすがのスウちゃんもぐっとつまった。
 ここでチャイムが鳴った。中休みは終わり、みんな席に戻っていく。

 ともかく、背が小さいのも、大きいのも、大いになやみどころだ、ということだ。


 いつもの帰り道。

「ロク、身長何センチだった」
「149センチ」
「後ろから何ばんめ」
「2ばんめ。ナナは?」
 う。来ると思った。
 そのうち朝会とかでバレるにしてもなんとなく今は言いたくなくてだまっていると、にやっとしながらロクが言った。
「一番前?」
「ちがうよっ! サッチが一番前だもん!」
「じゃあ2ばんめか」
 バレた。
「いいじゃん前でも」
「よくないよー。たまには後ろにいってみたいよー」
 これはロクにはわからないなやみだ。
 ロクは『青井』だから、出席番号順だと前なんだな、とぼーっと考えてたら
「いいことだってあるよ」とロクが言った。
「なに。写真がとりやすいとかはもう聞いたからいいよ」
「なんだそれ」
「まあいいから。で、なにいいことって」

「おれが1組で後ろの方だろ。ナナが2組で前の方だろ。遠足とか、社会科見学とか、1組のあとに2組って続いて移動することが多いから、そういう歩いてるときとか、近いよ」

 ……。
 …………。
 はあ、なるほど。そういうとき、ロクが近くというかすぐ前を歩いてるのか。
 それは、いいことなのか?
 でもロクがいいことっていうならそうなのかな。

「そうだね、悪いことばっかじゃないね」

 私が言ったら、ロクはにっこり笑った。




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