icecream lover | ナノ


icecream lover
 



「暑い……」

 夏休みは暑いばっかりだ。朝からようしゃなく暑い。いっそハダカでねたい。ママがおこるだろうからやらないけど。
「ナナ、さっさと着替えて! 洗濯するんだから!」
 朝からママはうるさい。暑さ3割増し。
 サーティナインアイスのストロベリー&ストロベリーが食べたいな、と思いながら服を出してたら、無意識にイチゴのアイスみたいなライトピンクのノースリーブシャツを選んでいた。下はうすいベージュのパンプキンパンツ。ストロベリー&ストロベリーとカフェモカのダブルコーンの完成だ。あーアイス食べたいな。


「ねえママ。サーティナインでアイス買ってきていい?」
 今から行けば駅前のお店はもう開店しているだろう。
「自分のお小遣いからならね」
 ママはなかなかキビシイのであった。
 でもなんだか今日はどうしてもアイスが食べたい。というわけで、しかたない、私は自分のサイフを小さめのトートバッグにぶっこんで、つま先にでっかいお花のついたサンダルをはいて、玄関のドアを開けた。

「あ」
「あ」

 外に出ると隣の家の庭でロクがホースで草木に水をあげていた。草木の水やりはロクの夏休みのお手伝いのひとつらしい。水のかかったタチアオイやアガパンサスがキラキラしている。
「気持ちよさそう」と言うと、
「見てるぶんにはね」
 たしかに、水をあげてるだけのロクは汗だくだった。

「どっか行くの」
「駅前のサーティナイン。暑いから」
「ふうん。おれも行っていい?」
「いいよ。ロクも食べたくなった?」
「ナナのかっこ見たら、ストロベリー&ストロベリーとナッツスクランブルのダブルが食べたくなった」
 ロクの感覚だと、このベージュのパンツはカフェモカじゃなくってナッツスクランブルらしい。そういうロクが着ているのは、水色地にこげ茶色の小さい英字がプリントされてるTシャツで、チョコチップミントみたいだった。私はちょっとチョコミントに気分がかたむいた。

 線路沿いの駅までの道を二人で歩く。
「ロク見たら私はチョコミントが食べたくなってきたよ」
 ロクは笑って、じゃあ、と前を歩いてる女の人をそっと指さした。
「あの人の服はオレンジシャーベットだな」
 それからはもう二人でキョロキョロしながら道行く人の服を観察し、あれはマスクメロンだ、あれはレモンソルベだ、あれはかなり苦そうなまっ茶だ、と言いながら店に向かった。


 さて、私はなやんだ。
 いざショーケースに向かうと、そもそも一番最初にアイスを食べたくなったはずのストロベリー&ストロベリーはどこかへいってしまって、一番最後に見かけたおばあさんの服のあずき大納言が、もう頭からはなれなくてはなれなくて、けっきょくあずき大納言とチョコレートチップという、なんだかよくわからない組み合わせにしてしまった。
「ロク、どうする」
 すっかり迷いつかれた私だったが、ロクは迷うそぶりも見せなかった。
「ストロベリー&ストロベリーとナッツスクランブルのダブルください」
 私はロクの中に、最初にこうと決めたら変わらない意志の強さをみた!

「ロク迷わないんだね……」
 店内の小さなテーブルに向かい合って座ってアイスを食べながら私は感心した。
「だって言ったじゃん。ナナのかっこ見て食べたくなったって」
 そうだけど。でも、そうすると。
「なあーんか私、ロクに食べられてる気分になるよ」
 あずき大納言を食べながらしかめっ面で言うと、ロクは
「全部まるごと食ってやるよ」
と笑った。






(afterword)
 「あらすじ100ものがたり」の中の「icecream lover」はこちらの話を多少設定を変えて改稿したものです。アイスみたいな色した服を着た女の子、がどうしても描きたかったのです。








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