06





最後の授業の終業のチャイムが終わると、山本と獄寺の足はおのずとツナの席へと集まった。なんとはなしに目を合わせ、それから机の下に隠すように握りしめていた手を机の上へと出した。きつく握りしめていた手を開けば、ラバーストラップがある。ずっと握りしめていたそれはじっとりと汗ばんでいるが、これに触れている間、朝からどんよりとした気持ちというか雰囲気が心なしか晴れやかになっている気がする。プラシーボ効果とはよくいうけれど、彼女が言ったとおりそれは確かに気休めにはなっていた。クラスメイトが教室から足早に姿を消していくなか、山本が「C組いくか」と切り出した。獄寺は信用していない様子で、山本とツナはいまだ半信半疑ではあったがツナの謎の不調があることは確かだ。打開策がないのだから、差し伸べてくれている手をとる他ない。ツナは左手で自身のカバンを持ち、山本の言葉にうなづいて立ち上がった。
教室を出ようかというとき、教室の扉からちょうど「神崎」と名乗った少女の姿が見えた。ツナと視線がかちあい、それから瞼が落ちるのが分かるほどゆっくりと瞬きをする。値踏みする、というか、観察されているに近い。そんな意味合いを感じる視線に言葉につまる。


「ストラップ、」
「え……、ああ、ちゃんと持ってる!!」
「ん、」


言葉少なに会話(?)をして、それから神崎はツナの家に行く流れとなった。ツナ、獄寺、山本を先頭にその後ろを神崎がついて歩くという形だった。当たり前のように、いつもの道を歩いて帰ろうとすれば「なるべく遠回りして帰って」とだけ口にされた。いつもの道を使えば10分そこらで帰れる道のりを、ツナたちはたっぷり小一時間近くかかりながらツナ宅へと足を運ぶはめになった。
神崎はしきりに背後や、頭上を気にしながら歩いており、それがいっそうツナたちを恐怖へと誘う。なにも語らない神崎に、3人も言葉少なになり、それはまるで通夜の席のような空気となっていた。

いつもより遅い時間に、自宅の前につくとツナは控えめに「あの、ここオレの家で……」と、紹介をした。頷く神崎。山本や獄寺は慣れた様子で敷居をまたぎ、ツナもまた自分の敷地に足を踏み入れたが神崎だけが住宅街の狭い道路からこちらに来ようとしない。


「あの、」
「ごめん、言ってほしいことがあって」
「?」
「ちゃんと私や、その二人を招き入れる言葉が欲しい」


言葉の意味が理解出来ずにいたが、必要な行為であると言われ大人しくその言葉に従った。自宅の鍵をポケットから取り出し、玄関扉を開いた。


「えっと、獄寺君、山本、神崎さん。えーーと、どうぞあがってください?」


-7-


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